研究課題/領域番号 |
22K12530
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
足立 薫 京都産業大学, 現代社会学部, 准教授 (10802150)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 民族霊長類学 / 地域環境史 / マカク属 / 野生動物 / 共存 |
研究実績の概要 |
COVID-19対策のため秋までは入境時の規制が厳しく、現地調査を実施できなかったが、2月以降に香港、新界地区での現地調査を再開した。現地の研究協力者とミーティングを行い、調査休止期間の状況と今後の見通しに関する情報共有を行った。これにより、フィールド調査を継続する準備が整った。現地調査による行動データと、文献調査による生態史の復元データを合わせることにより、地域の文化生態複合としてのヒトと動物の関係を考察している。 今年度は野外調査の再開準備を優先させたため、香港政府の公文書館資料の調査を開始できなかったが、香港自然漁農護理署(AFCD)の文書の予備調査を実施した。また、デジタルデータベースなどで補足のデータ収集を行うことができた。 これまでに得られたデータのまとめを行うとともに、香港のマカクザルとの比較を行うために他の動物の事例の収集にあたった。国内を含めひろく野生動物全般の餌づけ、人なれについての資料収集を続けている。これらの資料は、ヒトと野生動物の関係をより広い視野で捉え、自然認識の人類学と動物のエスノグラフィーの接合を目指す新しい視点として独自のものである。 また、ヒトとサルの関係性を「ことば」で表現する新しい試みとして、アーティスト大小島真木氏の「つくりかけラボ09コレスポンダンス《万物は語る》」に登壇した。ヒトの言葉でサルになりきって語ることで、サルとヒトの境界を捉えなおしながら、大小島氏のドローイングとのコラボレーションを実施する新しい試みとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19感染症拡大の影響により、現地調査を行うことができずデータ収集に遅れが発生しているが、オンラインでのデータ収集や次年度以降の計画を見直すことにより、おおよそ予定通りに研究を進行している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、計画を変更して香港での現地調査を集中して行うとともに、これまでに収集した2種のマカクザルとヒトの観察データ分析を継続しさらに詳細な観察を行う。また、マカクザルに関わる地域住民の聞取り調査から、民族誌データをさらに蓄積する。香港の歴史社会的状況と、新界地区の郊野公園の設立の関係についての文献収集範囲を広げ、香港における狩猟や動物の取引市場などについても調査を行う。これらの成果をまとめ、国内の人類学会での発表と国際論文誌への投稿をめざす。次年度以降は現地調査および資料分析にあたって、翻訳、通訳のために人件費を支出し、作業の効率化をはかる予定である。 COVID-19のパンデミックは、香港の社会経済に大きな影響を与えたが、地域の環境史構築の観点から、コロナ禍でのヒトと野生マカクザルの関係の変化についても、今後データを収集する予定である。 科学研究費(基盤研究S19H05591)「社会性の起原と進化:人類学と霊長類学の協働に基づく人類進化理論の新開拓」と合同で、アジア地域のマカクザルと人間の関係をテーマにして、民族霊長類学の国際シンポジウムを2023年11月(予定)に実施し、獣害対策や保全生物学などの隣接諸分野との協働を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年末まで香港の入境規制が厳しく現地調査が実施できなかったため、年度前半に実施する予定の渡航滞在が実施できなかった。これに関係する旅費と資料分析の費用は、次年度以降の現地調査の日数を増やして実施する経費とする。また、科学研究費(基盤研究S19H05591)「社会性の起原と進化:人類学と霊長類学の協働に基づく人類進化理論の新開拓」と共催で国際シンポジウムを開催し、国内外の民族霊長類学研究者を招いて成果の共有を行う。
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