研究課題/領域番号 |
22K12540
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大野 旭 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ウズベキスタン / アム河 / シル河 / 綿花栽培 / ダム建設 / 環境変動 / 文明の興亡 / イスラーム |
研究実績の概要 |
春から中央アジアの環境問題に関する歴史学・文献学的研究の整理に着手した。帝政ロシア期から始まり、ソ連時代における大規模開発(灌漑水路の整備・ダム建設・綿花栽培など)とそれによる環境変動への影響について既往研究を再検討した。具体的にはソ連時代の公式史観に基づく研究だけでなく、近年に現われた欧米諸国・日本と現地の研究者たちとの共同作業による調査報告書についても分析した。 夏休みの帰還を利用し、当初の計画通りにウズベキスタンに赴き、現地調査を実施した。ウズベキスタン科学アカデミーの研究者と共にアム河流域とシル河の上流地点で考察した。具体的にはフェルガーナ盆地に入り、中央アジアの複数の大河の水源地を探査した。ダムと水路の整備と建設、それに沿線の村落と都市興亡及び現地住民の生活について聞き書きをおこなった。 その後、アム河に沿って下り、コーカンドとブハラまでを踏査した。文明が始まって以来の水を利用した遺跡が多く分布し、現在まで繁栄が続いている。そうした河川沿線の都市と村落で近世における帝政ロシアへの編入と抵抗、ソ連時代の大規模工事の出現について資料を集めた。また、アム河の水を西のトルクメニスタンへ引く分水地点まで調査し、沙漠地帯における綿花栽培と資源開発の実態、環境変動に関するデータを収集した。 日本に帰ってからは引き続き欧米の最新研究の成果を集めつつ、現地から入手した資料との比較研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
勤務校の静岡大学をはじめ、帝政ロシアと旧ソ連に関する文献は日本国内で多数保管されているし、近年の最新研究の成果の収集も順調である。既往研究の再検討をスムーズに進めてからの現地調査も当初の計画通りに進んでいる。 現地調査に当たっては、ウズベキスタン共和国科学アカデミーの研究者たちの全面的なバックアップが得られたからである。特に現地での実地調査には地元の研究者たちと地元の有力なインフォーマントたちの全面的な協力と理解が不可欠である。科学アカデミーの各地の支部とそこに勤務する研究者たちのネットワークに頼ることが多く、有益な情報と資料を入手できた。帝政ロシア期とソ連時代の資料も現地に多数残されているので、閲覧・収集することが許可された。 また、ウズベキスタンは旧ソ連から独立した後に少しずつ民主化が定着し、農村と都市部での現場観察、現地人へのインタビューも困難なく進めることができた。最新の調査報告書や学術書も多数公開されているので、学術研究の共同推進に有利であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後、とくに令和5年度においては、当初からの計画通り、カザフスタンで現地調査を実施する予定である。 まず、春から既往研究の成果を再度綿密に検討し、残された課題について分析し整理する。帝政ロシアによるカザブ草原への進出と遊牧民の征服、ロシア人農民の入植などがどのように進められたのかについて調べる。1920年代に入ると、ボルシェビキ革命によるカザフスタンへの影響と赤軍の侵入、そしてソ連の成立に伴う遊牧民の定住化政策の実施について研究する。こうした社会変動期において、シル河流域に暮らすカザフ人遊牧民の生活はどのように変化したのか。定住に入った際にシル河にどんな村落が形成されたのか。定住したカザフ人とロシア人、ドイツ人、ウクライナ人農民といかなる関係を構築したのか。そして、多くの研究者が指摘する大飢饉(死者数200万人とも)は何故、発生したのか。 社会主義制度が完全に定着した後、カザフスタンでもシル河沿線に複数のダムを建設し、草原を農耕地として開拓した。ダム建設と灌漑施設の工事により、シル河の流量はいつから、どのように変化したのか。シル河からアラル海への水の流量現象により、アラル海の枯渇問題はどのように現れたのか。こうした諸問題について、現地から文献資料を集め、現地に暮らす人々にインタビューを実施する予定である。 また、アラル海枯渇問題が世界的に注目されるようになってから、ウズベキスタンとカザフスタン両国を流れるシル河の管理問題も浮上し、環境問題と国際関係が連動するようになってきた。そうした現状を把握する為に、カザフスタンから陸路でウズベキスタンに渡り、河川沿線で調査、観察予定である。
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