研究課題/領域番号 |
22K12577
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
中内 政貴 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (10533680)
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研究分担者 |
安富 淳 叡啓大学, ソーシャルシステムデザイン学部, 准教授 (50704673)
内田 州 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 次席研究員 (90852541)
田中 聡 立命館大学, 国際関係学部, 嘱託講師 (00965741)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 体制移行国における地方分権化 / 補完性原則による地方分権化 / 欧州統合と地方分権化 / 中央政府と地方自治政府との権限争い |
研究実績の概要 |
2022年度は、研究計画に従い、欧州における地方分権化の理論面での検討を行った。欧州連合(EU)における地方自治原理として有名になった補完性原則については、主にEUと加盟国政府との関係を規定するために導入された経緯があるが、本研究において、補完性原則が生まれた原点において各国内での地方分権を促進する要素を持っていた点、それをEUが新規加盟国を迎える際に改革を促進するメカニズムとして活用してきた経緯を確認した。一方で、中央集権の傾向が強いフランスと、地方の権限の強いドイツの連邦制との間などでは、地方分権化の度合いに大きな相違が存在しており、EUの内部においても地方分権化の程度や態様について必ずしも合意が存在するわけではないと思われるが、2022年度の調査の限りでは、こうしたEU既加盟国側の事情が、新規加盟国の地方分権化や加盟交渉に影響を及ぼした証拠は得られなかった。一方で、2022年度中に研究分担者が実施した現地調査(ラトビアおよびボスニア・ヘルツェゴビナ)においては、旧体制(共産主義)時代の中央-地方関係が体制移行後の統治のあり方に影響を及ぼしている部分と、EUとの関係において地方分権化が進んでいる部分とがあることが確認され、地方分権化の複雑な態様の一端が明らかになった。 この他、既存研究から、権限の種類によって地方分権化の度合いに差異が生じることを確認し分類を行った。これによれば、財政や人事に関する分野で特に分権化への抵抗が起こりやすく、これが名目上の分権化の効果を損なう場合も存在することが判明した。今後、2023年度中にこのような要素を反映して欧州における地方分権化の分析枠組みを作成し、体制移行国や紛争経験国に対する分析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1年目にあたる2022年度は、個別に文献調査を行うとともに、全体での研究会を1回オンラインで行ったほか、随時、研究代表者と研究分担者との個別の研究打ち合わせを実施した。これらを通して、主に理論面で上記に記したような成果を得られたことから、早期に共著論文の形で発表することや、共著での書籍の出版の検討も行っている。今後、理論面での研究を進めつつ、事例研究を積み重ね、適宜理論の修正を図ることで、本研究は地方分権化研究や体制移行研究、平和構築研究に貢献を行うことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2回程度の全体での研究会(対面)を実施し、各研究者の進捗状況について共有しつつ、現地調査による事例研究を進める予定である。引き続き、研究代表者および研究分担者の安富(叡啓大学)とで理論面の検討と既存研究を用いた中・東欧諸国の事例研究を進めて分析枠組みの作成、改善をはかり、これを用いて研究分担者の内田(早稲田大学)がバルト海諸国および南コーカサス諸国、田中(立命館大学)と研究代表者がバルカン諸国の事例研究を進める予定である。また、ウクライナおよびモルドバがEU加盟候補国に加わったことから、今後、急速に地方分権化を含む改革が進んでいくことが予想され、両国を分析対象に入れ、特にモルドバについては現地調査を含めた事例研究も行うことを計画している。モルドバについては、分離派地域の存在(ジョージアとの共通性)や、ロシア系住民の存在(エストニアおよびラトビアとの共通性)といった重要な要素が含まれており、同事例の研究から本研究全体に大きな示唆が得られるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は新型コロナウイルス感染症の影響が残ったことから、対面での研究会や事例研究のための現地調査の実施に一部困難な状況が生じた。一方で、文献調査は順調に実施できていることから、その成果を活用して、2023年度に前年度残額分を使用して対面での研究会や現地調査を実施する予定である。
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