研究課題/領域番号 |
22K12609
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小倉 亜紗美 呉工業高等専門学校, 人文社会系分野, 准教授 (10706203)
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研究分担者 |
王 新 環太平洋大学, その他部局等, 講師 (20724371)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オーバーツーリズム / 野生化カイウサギ / 大久野島 / 国立公園 / 環境負荷 / 餌やり |
研究実績の概要 |
本研究は、「ウサギの島」として近年有名になったことで、近年観光客が急増した広島県竹原市の大久野島を対象に、オーバーツーリズムなどが生じている観光地の持続可能な利用の在り方を示すことを最終目標としている。大久野島では、観光客の増加に伴い島に生息している野生のアナウサギが急増するという問題が生じている。そこで、大久野島における観光客の増加と副次的に生じたウサギの個体数の増加の影響を明らかにするため、2022年度は、2021年に観光客を対象として行ったアンケート調査の結果をもとに、観光客が持ち込む餌の一人当たりの平均乾燥重量を推定したところ86.5 g/人と計算された。この値に観光客数を乗ずることで、毎年観光客によって持ち込まれる餌の総量(Wfyear)を推定した。持ち込まれていた餌は「ペレット(牧草)」が34%と最も多く,続いて多かったニンジン(25%),キャベツ(24%)が多く、この3種で全体の8割以上を占めていた。Wfyearの影響を明らかにするため、島内のウサギの餌資源の中で最も広い面積を占める芝の成長量と比較するため、島内の芝の生産量(Wgyear)を推定し、それと比較した。芝の生産量は環境省の許可を得て2022年11月より現地で調査を始めているが、坂上ら(2003)の推定値である年間生産量490 g/ m2/year(乾燥重量)(坂上ら,2003)と、2021年のGoogle mapの航空写真から面積測定機能を用いて求めた大久野島の芝の面積1.72×104(m2)と乗算すると、島内の芝の生産量Wgyear は8.4 t/yearと算出された。来島者数の最も多かった2017年に観光客が持ち込んだ餌の量は27 t/yearと推定され,これはWgyearの3.2倍であった。以上のことから観光客による餌の過剰な持ち込みがウサギの増加に強く影響している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は本研究を進める上で、最も重要な観光客の持ち込む餌の量の推定をし、文献値を用いて島内のウサギの餌資源の中で最も広い面積を占める芝の生産量との比較を行うことが出来た。また、島の管理者である環境省に大久野島での調査区の設置許可を得るのに時間はかかったが、2022年12月より芝の成長量の調査が開始できたので、2023年12月には1年間の芝の成長量の計算に必要なデータが取得完了する予定である。 また2022年は、第65回土木計画学研究発表会・春大会(2022年6月)、日本環境学会第48回研究発表会(2022年7月)、第17回日本モビリティ・マネジメント会議(2022年8)で発表したほか、2023年1月に開催された国際ウェビナー「動物と観光ウェビナー2023日本におけるワイルドライフ・ツーリズム―発展の可能性と展望―」で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に行った研究では、芝の生産量を文献値を用いて推定した。推定に用いた坂上らの調査は、2002年に栃木県の放牧地において行われたものであるので、大久野島とは気候等も異なるため、生産量が過少または過大になっている可能性もある。そこで、2022年12月~2023年11月の1年間環境省の許可を得て大久野島内に5か所の調査区を設定し、ウサギが芝を食べられないように柵で囲った柵有区と囲っていない柵無区(それぞれ1 m×1 m)を各調査区に設定し、毎月1回柵有区と柵無区内の25cm×25cm内の植物を刈取り、70℃で3日間風乾した後に、乾燥重量を測定して芝等の植生の成長量を調べる予定である(2022年11月より開始)。また、これまでの研究結果より、観光客による餌の持ち込みがウサギの増減に強く影響を与えている可能性が高いため、持続可能な観光を目指すためには、観光客による餌の持ち込みに一定の制限を設けることが重要だと考えられる。そこで、どのような制限であれば受け入れられるのかを調べるために、再度観光客を対象としたアンケート調査を実施する予定である。 さらに観光客増加によるCO2排出量の増加についても明らかにするため、交通手段毎のCO2排出量を計算し、観光客の増加によるCO2排出量への影響を比較することで、より環境負荷の低い移動手段についても提言したい。これについて、2021年に実施したアンケートにおいて、観光客の交通手段についても確認済である。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者が現地調査に参加できる回数が少なかったことと、芝の乾燥に必要な乾燥機を無料で借りることが出来たため。
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備考 |
2022年までの研究成果は、2023年1月19日に開催された「動物と観光ウェビナー2023日本におけるワイルドライフ・ツーリズム―発展の可能性と展望―」において発表した。
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