研究課題/領域番号 |
22K12655
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 葉子 名古屋大学, ジェンダーダイバーシティセンター, 教授 (60613982)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 人身売買 / 性管理政策 / 自由廃業 / 娼妓 / 芸妓 / 人権 / 公娼制度 / インターセクショナリティ |
研究実績の概要 |
2022年度は、国際学会(Asian Studies Conference Japan)や学術講演会(名古屋大学GRLジェンダー研究集会「ジェンダー化された帝国日本の周縁 インターセクショナリティの視座から」)において、本研究課題の視座を示す意図から、帝国の人身売買問題の構造について概説する発表を行なった。同じく、日本の近代公娼制度を、公娼地域(遊廓)のみならず、その外部をも統制する制度として捉える観点から、特に芸妓の慈善活動に着目して、それらの活動と戦争協力の関係について分析する研究報告を行なった(大阪公立大学女性学講演会)。 また、帝国日本の人身売買問題の具体的様相について把握するため、内地および植民地台湾で発行された新聞の内容を調査し、特に自由廃業運動の開始期(1900年前後)に着目して、娼妓・芸妓の契約をめぐる当事者の闘争がどのように行われたかについて明らかにする論文を発表した(『日本史研究』729号掲載決定、近刊)。その拙稿では、すでに1900年頃に、日本のほぼ全ての地域において、娼妓や芸妓が合法的な契約のもとでも虐使され、特に娼妓が暴行されていることが知れ渡り、それが「人権」問題であり、自由廃業運動は「奴隷解放」運動であるとの認識が広まっていたことを示した。 近年、国際社会において、近代日本の公娼制度下の娼妓や芸妓の契約に対する関心が再び高まり、それが奴隷制的なものであったか否かについての論争が巻き起こっており、特に日本軍「慰安婦」問題との関連において、過去の日本の戦争責任を考える上で最も重要な歴史問題の一つとして捉えられていることから、娼妓や芸妓らの当事者運動としての自由廃業運動の実態とその社会的背景について明らかにしたことの意義は大きいと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、当初の論文執筆計画を一部修正し、日本国内で入手できる史料を主に用いた論文を先に執筆することになったため、2022年度に行う予定だったオーストラリアでの史料調査は次年度に行うことになったが、国内外の学会や研究会での研究発表と論文の寄稿により、本研究課題に関する成果の一部を公表できたことから、本研究課題への取り組みは順調に進めることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、国際学会での発表を2件予定しており、そこでの成果発表に向けて、現在、準備を進めている。 特に自由廃業運動と海外における人身売買禁止運動との関連に着目し、ニュージーランドや米国との関係についての史料の分析に力を入れたい。 日本において欧米の公娼制度や廃娼運動がどのように捉えられていたかという点についての調査も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、当初の論文執筆計画を一部修正し、日本国内で入手できる史料を主に用いた論文を先に執筆することになったため、国内での史料調査を優先させることにした。 そのため、2022年度に実施予定だったオーストラリアでの史料調査は、2023年度に行う予定であり、次年度使用額は、その調査費用の一部として使用する予定である。
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