研究課題/領域番号 |
22K12661
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐藤 渉 金沢大学, 物質化学系, 教授 (90333319)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酸化亜鉛 / 電気伝導度 / 摂動角相関 / ドナー / インジウム / 熱拡散 |
研究実績の概要 |
酸化亜鉛(ZnO)は不純物の導入によって光学特性や電気特性が大きく変化する。従って、不純物の存在状態を把握し制御することは、機能性材料としての応用を目指す上でも大変重要である。我々はこれまで、ZnO中でドナーとして機能するインジウム(In)を不純物として添加したIn-doped ZnO(IZO)を合成し、111Cd(←111In)をプローブとするγ線摂動角相関(PAC)法でZnO中の不純物In周辺の局所構造を調べてきた。詳細な解析の結果、固相反応法によって導入された不純物InはZnO中でZnIn2O4を基本骨格とするナノ構造体を形成し、この構造体が伝導電子を散乱するため、電気伝導の妨げとなっていることが判明した。従って本研究では、一度形成したナノ構造体を解体し、InをZn位置に置換させる方法の確立を目指して実験を行った。 石英管中に真空で封じた試料を1273 Kで加熱し、これを室温に戻して開封し、PAC測定を行った。その後再び別の石英管に真空封入して熱処理をした後にPAC測定をするという操作を複数回繰り返した。その結果、Zn置換成分が真空中での熱処理時間とともに増加することが明らかとなった。これは、ナノ構造体からInが離脱し、熱拡散によってZn格子点に移動したことを示唆する結果である。真空加熱によってナノ構造体から酸素原子が脱離して電荷バランスが崩れ、Inが放出されたものと考えられる。さらに、プローブを含まない試料にPAC測定試料と同様の熱処理を行って電気伝導度を測定し、Zn置換成分比との関係を調べたところ、きれいな相関が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化亜鉛の電気特性を向上させるためには、ドナー位置の局所構造を解析し、存在状態を明らかにすることが必要となるが、2022年度は、インジウムドナーの存在状態を原子レベルで解明することに成功した。よって初年度としては、順調に研究が進んでいると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
酸化亜鉛の電気特性を向上させ、機能性材料として応用するためには、ドナーとなる原子を目的とするドープレベルまで如何に簡便に導入できるかが重要となる。今年度の研究によって、0.5%のIn原子をZn置換位置に導入し、電気伝導度を5桁向上させることに成功したが、多段階での熱処理を必要とする方法のため、手順が複雑で、時間を要するという課題を残している。そこで、今後は熱処理の条件(真空度、処理時間、温度など)を検討し、より簡便に導入できる方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
即発ガンマ線分析(PGA)法によって、酸化亜鉛中の水素の定量を行い、その結果を踏まえて核反応分析(NRA)法で水素の存在状態を明らかにする予定であったが、PGA測定を実施した結果、予想以上にバックグラウンドが高かったため、水素の定量が困難であった。予想していたよりも水素の混入量が少ない可能性もあり、測定装置の改良を含めて検討を要することが分かった。従って、NRA法実施のために製作を予定したサンプルホルダーの発注には至らなかったため、次年度使用額が生じた。2023年度は水素の定量の可否を見極め、ホルダー製作の是非を検討する。
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