研究課題
材料に軽元素を含むとき、その構造研究の最も大きな課題は、軽元素のまわりの局所原子配列をX線回折やX線吸収微細構造などの一般的な手法で求めることができないことである。中性子回折を適用できることもあるが、可能な元素がかなり制限される。申請者はこの問題を解決するために、蛍光軟X線を用いたホログラフィー法による測定を提案した。この方法は硬X線を直接入射する標準波と、一旦近接原子の散乱をする物体波が、硬X線の方向と結晶の方位との関係で干渉を起こすため、軽元素から放出される蛍光軟X線の強度が変調を起こすことを利用する。本研究では、アンジュレータ放射光から出る高強度の硬X線を真空容器に導き、真空中で結晶を入射角、変位角の2つの角度で変化させ、放出される蛍光軟X線を敏感でエネルギー分析ができるシリコン・ドリフト検出器を用いて測定する。測定した蛍光軟X線の角度変化(ホログラム)は最新のスパース・モデリングを用いて解析を行い、軽元素のまわりの局所原子配列を導出する。対象とする試料は、シリコンカーバイド・ワイドギャップ半導体やコバルトーニッケルーアルミニウム準結晶を予定している。
2: おおむね順調に進展している
以前に挑戦的研究(萌芽)の助成を受けて準備した測定装置を大型放射光施設SPring-8に持ち込み、シリコンやアルミニウムなどの軽元素から蛍光軟X線を検出した。また角度変化など装置が、測定プログラムで順調に稼働することを確認した。しかしながら、蛍光軟X線の強度が想定した通り弱いため、その測定からだけでは結晶試料の方位を正確に決定できず、目標とするホログラムの構築ができなかった。
重元素を含む結晶試料については、これまで行ってきたように空気中での重元素の蛍光X線ホログラフィー測定から結晶方位を決定できる。例えば、コバルトーニッケルーアルミニウム準結晶については、コバルトかニッケルの蛍光X線ホログラフィーによって方位を決定し、その後装置全体を真空にすることにより、アルミニウムの蛍光軟X線ホログラフィーを測定する。シリコンカーバイドのように重元素を含まないときは、2次元検出器を用いたX線回折実験を事前に空気中で行って結晶方位を決定し、その後真空中でアルミニウムや炭素の蛍光軟X線ホログラフィーを測定する。
測定装置の改善が必要である。また、コロナのため国際会議に予定したような研究発表が十分にできなかったので、改めて次年度に研究成果を国際会議で発表したい。
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Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena
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