研究課題/領域番号 |
22K12671
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡本 宏己 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 教授 (40211809)
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研究分担者 |
伊藤 清一 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 助教 (70335719)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | イオン線形加速器 / イオン蓄積リング / 空間電荷効果 / 線形ポールトラップ / 共鳴不安定性 |
研究実績の概要 |
円形加速器中の大強度ハドロンビームを念頭に、軸方向に長く伸びたイオンプラズマ(長バンチ)の安定条件を主にS-POD II号機を使って調べた。実際の加速器では不可避な磁場誤差の影響を確認するため、イオン収束のための基本四重極高周波電圧(1 MHz)に超周期の摂動(基本周波数1 MHzの自然数分の1)を重畳してイオン損失率を計測した。ラティス対称性の破れにより、新たな共鳴帯が多数出現することを確認した。加えて、主要な共鳴帯の近傍に弱いサイドバンド共鳴が誘起されることも分かった。 S-POD III号機では、ロッド電極上の微弱な誘導電荷をモニターすることにより、四重極振動モードの周波数の直接計測を行った。獲得したデータから、トラップ中に捕捉されたイオン数の関数として“チューン降下率(プラズマ密度の指標)”を導くことに成功した。チューン降下率の評価値は、全く別の手法を使った先行研究で結論されていた値とほぼ一致した。 線形加速器において典型的な、楕円体から球体状の大強度ビーム(短バンチ)を想定した実験をS-POD IV号機で実施した。これまでトラップ軸方向のイオン閉じ込めポテンシャルは静的であったが、本研究では(典型的な線形ハドロン加速器のビーム収束パターンを念頭に)2 MHzの高周波を使用した。広いチューン領域で一定時間内のイオン残存率を計測し、低次ベータトロン共鳴帯およびシンクロベータトロン結合共鳴帯の存在を明らかにした。チューンダイアグラム上での共鳴帯の分布は静的な軸方向イオン閉じ込め場を使った場合と本質的に変わらないことが分かった。 自己無撞着なアルゴリズムに基づく多粒子シミュレーションも並行して実施し、S-POD実験のデータと良い一致を得ている。また、線形加速器の動作条件を適切に選ぶことにより、特定の差共鳴不安定性が強く抑制できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画に沿って、実験・理論共おおむね順調に成果が上がっている。当初、S-POD II, III, IV号機を並列で稼働させていたが、現時点では重要度の高いIIIおよびIV号機での実験に注力している。マンパワーの問題で年度後半からII号機の稼働率が低下しているが、その他のS-PODが十分なデータを生産しており特段の問題は生じていない。短バンチ実験の一部(IV号機で実施予定)に必要な高周波電源系のアップグレードについては現在検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
科研費申請時のプランにほぼ沿った形で有益なデータが得られている。今後も予定通り、S-PODによる実験と多粒子シミュレーションに基づく理論的検討を進めていく。 S-POD II:引き続き、円形加速器中の長バンチを模したイオンプラズマを生成し、その安定性を精査する。本実験に充てることのできるマンパワーの関係で、令和4年度後半は稼働率が下がっていた。令和5年度もS-POD IIIおよびIV号機の実験を軸に研究を進めるが、II号機も適宜稼働させ、年度前半に行っていた研究(ラティス周期性の破れに起因する共鳴的ビーム不安定性の解明)の継続を図る。 S-POD III:強い非線形外場の下での共鳴不安定化現象の実験的研究を継続する。令和4年度から進めている、3次コヒーレント振動モード(六重極集団振動)の振動数の精密測定を試みる。S-POD III号機に導入された新型イオントラップを使えば、4次モード(八重極集団振動)の振動数測定も原理的には可能ではあるが、3次モード以上に微弱で観測が難しいと予想される。実際に4次モードの観測に挑戦するかどうかは3次モードの測定データを見てから判断することにしたい。 S-POD IV:線形加速器中の短バンチを想定した実験が順調に進捗している。令和5年度は前年度のデータを更に補強するため測定点数を増やすと共に、共鳴現象のビーム密度依存性に関するデータを系統的に取得する。また、電源系を改良して、非常に高いシンクロトロンチューン領域の部分的サーベイを実施する。 多粒子シミュレーション:これまで通り、複数のParticle-In-Cellコードを活用する。長バンチ計算は主に“WARP”、短バンチ計算には“IMPACT”を用いる。強い初期不整合を有する大強度ハドロンビームの安定性についても理論的に考察していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
毎年年度末に行われていた日本物理学会年次大会が変則的に2023年9月開催となり、旅費の使用計画を変更したため。差額分は令和5年度9月に開催される第78回年次大会への参加に充てる予定である。
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