研究実績の概要 |
実験の結果より, パーソナルスペース(以下,PS)の平均値は公衆距離1732.6㎝,社会距離833.1cm,固体距離327.1cm,密接距離101.5cmであり, E・ホールの知見と比較すると公衆距離で2.3倍、社会距離で2.3倍,固体距離で2.7倍,密接距離で2.3倍と高い値に変化している(遠方相として算出)。次に,各対人距離のスマホの有無による差はないが,社会距離は距離が分散傾向だった。性差は全ての距離で男性の方が女性よりも距離が長い傾向がある。また,各対人距離についてスマホの有無,性差による差を2限配置分散分析により検討した結果,スマホの有無は有意差がないが,公衆距離において性差に有意差がみられた。視線計測実験より社会距離,固体距離,密接距離についてボタンを押す前後1秒間の視線停留頻度を解析すると,社会距離,個体距離では相手に視線が停留しているが密接距離では相手から意図的に目を逸らす傾向がある。この傾向はPSの侵害と視線データ,対人距離との関連性を示すものと考えられる。 アンケート調査より,対人距離が短くなると安心と答えた人数が減った。だが,やや安心,やや不安と答えた人数は増える。対人距離が短くなると不安に感じる傾向は確認できるがやや安心と答えた人数が増えることも確認された。これは社会距離では相手の様子が不明瞭で不安が高い。個体距離では,体格,表情、物品の保持の確認で不安感が減る。だが,更に接近した密接距離で確認できる表情が攻撃的なものに変化した場合,回避行動(逃走など)の困難さが生じるため,不安感が高まったと考えられる。今回の実験結果を下記の通り3点に集約する。 1. E・ホールの示す対人距離が現代では長くなるという傾向にあることが確認された。 2. 密接距離では相手以外のところに視線を停留させる視覚行動が複数確認された。 3. 公衆距離で,性別において有意差が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の予定であった予備的実験が終了し,実験・解析の方法もほぼ確定した。 当初考えていたより,スマートフォン保持、不保持の有意差がみられないといった点はあるが,パーソナルスペースについて,E・ホールの時代の調査の結果とは異なる数値が実験データから得られていることは興味深い。
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今後の研究の推進方策 |
当初考えていたより,スマートフォン保持、不保持の有意差がみられない。 研究の目的を鑑みて,スマートフォン保持、不保持による認識、行動の変化を検出できるように実験の方法を検討し,改良を加える。 改良案として、本実験によって更に実験協力者の数を増やし、より多くのデータを得る。また,実験協力者のどちらかの性別に限定するなど、差の要因となるものを減じる方法などを検討している。こういった方法はパーソナルスペースの値の計測についても有効となる可能性がある。
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