研究課題/領域番号 |
22K12709
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
篠崎 健一 日本大学, 生産工学部, 准教授 (80612613)
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研究分担者 |
藤井 晴行 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (50313341)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 民家 / 改修 / 行為 / 意思決定 / VGA / 伊是名 / 琉球 |
研究実績の概要 |
1)伊是名地区の一つの民家の調査から抽出したBDIフレームワーク(行為の概念のB信念,D欲求,I意図の関係)の8パターン(藤井ら2021)が,同地区民家の改修を標準的に説明することを明らかにし,標準から派生する多様な意思決定の仕組みを明らかにした。2)伊是名地区の民家の調査に基づく,住まいの築造と居住に関わる行為主体との会話から,築造や居住において具体的行為を意図する基本的理由(the primary reason)を分析し,民家を改修する行為の基本的理由を記述する方法を明らかにした。3)伊是名地区民家の主屋南側の縁側空間に注目し,実測図とテキスト化した会話記録,それらから推測される住居の過去の状態に基づいて,一番座,二番座,三番座それぞれの南側縁側空間における改修の傾向の特徴を明らかにした。以上1)-3)を日本建築学会大会(北海道)において学術論文として口頭発表した(2022年9月,以下に別掲載)。 また,伊是名地区の伝統的民家を対象とし,VGA(Visibility Graph Analysis)という空間の相互視認性を表現する数学的空間構成分析手法に,現地調査により抽出した居住者の生活行為を重ねて分析し,空間の相互視認性と居住者の行為の分布に対応関係があることを示した。また,空間と生活行為の関係が,社会的関係の意味(Hanson, 1998)を補強することを明らかにした。これをCAADRIA2023(28th International Conference of the Association for Computer-Aided Architectural Design Research in Asia,2023年3月,二段階査読付)学術論文として発表した(以下に掲載)。 これらを通して本助成研究課題の基礎的成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査対象のひとつである伊是名村伊是名地区の現地調査を再開した。3年ぶりの現地調査であることから,直接の調査目的である住まいの空間構成の状態の記述(実体的側面:民家の実測調査)と住まい手の語る自然言語の定性的データ(意識的側面:民家空間に関する語り)の収集と同時に,住まい手との関係を再確認,再構築することが重要な目的となった。実践的推論を可能とする厚い記述(計画書研究目的2))を獲得するために不可欠だからである。同様の理由から琉球の建築,空間,生活,文化に関して文献調査を行った。調査は6,7,8,10,11月,23年3月に行った。6,7月の調査は現地と研究者のCovid19感染により十分に行えない部分が生じたため年度後半に調査を追加した。本年3月に現地公民館において村役場,村民,区民を対象として調査報告会を行った。 具体的現地調査は,1)対象全66民家に関する既収集調査情報の再確認と補填,3年間に生じた新たな民家の改築に関する情報収集,2)改築希望(雨漏り解消)のある民家の詳細実測調査である。屋根瓦葺替えを視野に入れ,村助成の実施状況(瓦屋根葺替助成の仕組みを有するも,家屋の老朽化が進むと助成範囲が定まりにくいことから現在実行されていない)を理解して,家屋の軸組の詳細調査を行った。1)2)について,住居の改変(現在と過去の比較)の情報を整理して,実践的推論に基づいて行為を定式化する分析,考察を進めている。さらに3)民家を改築する実際の行為を視野に入れ,研究室におけるCAD3Dモデル操作と現地における身体的空間の体験を合成したVRによる空間理解の実験的研究をしている。 これらの調査研究に基づいて,日本建築学会大会(近畿)学術講演会(2023年9月開催予定)に学術論文を4本投稿している。
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今後の研究の推進方策 |
上述の日本建築学会大会(近畿)投稿論文は,今後の研究推進方策に関連する。論文タイトルは,1)伝統的琉球民家の空間の特徴をVGAと居住者の行為を重ねて考察することについて,2)伝統的琉球民家の改修による雨端の変容と居住者の行為の関係について,3)琉球民家の雨端の改築と住意識の持続と変容に関する研究,4)A Pilot Experiment towards Collaborative Design synchronizing Mixed Reality aided On-Site Design and Tele-Existence aided Remote Designである。 1)は,前掲CAADRIA2023論文の手法である空間構成の数学的表現と実地の居住者の生活行為を重ね合わせ考えることの意義を述べる。本助成研究課題の根底にある,科学の知に相対する臨床の知への視点と,建てることと住まうことという空間の意味,空間への己の定位の問題を共有する。この視点から研究を継続発展させる。 再開した伊是名地区調査で,これまでにないタイプの民家改築事例があることを理解した。この民家を実測し改築の実態をまとめたものが2)論文である。これは3)論文と関連している。これまでに蓄積した研究を基盤として,行為の概念に基づく民家改築の意思決定の仕組みの分析を進め,学会誌に発表することは直近の研究推進目標である。 4)は行為の概念を拡張,探究し,実践的に空間創造に寄与することを目指している。システムや方法を改善しながら推進したい。屋根瓦葺替えを希望する民家詳細調査に基づいて,実際の瓦葺替え施工と村の瓦葺替助成の条件明確化に寄与したい。 これらの具体的調査,分析,考察を通して,私たちが己の環境を形成する仕組みを行為の概念を用いて明らかにするという目的に向かい研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
CAADRIA2023(28th International Conference of the Association for Computer-Aided Architectural Design Research in Asia)投稿論文が採択されたが,会議は完全デュアル対応(対面+zoom)となり,インドに渡航しなかったため。また購入予定物品(カメラ)は期末になり購入が間に合わなかったため。次年度に,論文登録費または物品購入費(カメラ)として使用を計画している。
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