研究課題/領域番号 |
22K12764
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
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研究分担者 |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (40469937)
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非イオン性ヨード造影剤 / 嘔吐 / 分子動力学的解析 / セロトニン5-HT3受容体 / Y234 / Y153 |
研究実績の概要 |
本申請研究では造影剤分子が生体物質とどのような相互作用を起こすかをシミュレーション解析し、非イオン性ヨード造影剤による副作用発症機構を解明することを目的の一つとしている。本年度は、特に発症頻度の高い嘔吐に注目し、これを検討した。 本研究で対象とした造影剤は、イオメプロール、イオヘキソール、イオベルソールの三種類である。これらを使用した理由は、5位に結合している親水性側鎖の構造が異なることを除けば、全く同じ分子構造となっているため、比較検討が行い易いためである。そこで、これらの造影剤がどのような機構で嘔吐を惹起するかを検討するため、申請代表者は「造影剤分子がCTZ内のドーパミン受容体D2、セロトニン5-HT3受容体、NK1受容体に対しアゴニストとして作用し、嘔吐を引き起こす。」と言う仮説を立て、これを検証することにした。特に本年度は、三種類ある受容体の内、直接、嘔吐中枢に作用するセロトニン5-HT3受容体を対象とし、造影剤との相互作用を分子動力学的に解析した。その際、動作薬であるメチルセロトニンについても、同様の解析を行い、どのような点で造影剤と異なっているかを検討した。まず、メチルセロトニンについてであるが、この動作薬は受容体の結合ポケットを介して内部に侵入し、Y234及びY153と結合した。つまり、嘔吐を惹起するにはこれらのアミノ残基と同時に結合する必要があると考えられる。一方、造影剤については、受容体内部に入ることはなかったが、どの造影剤も1もしくは3位の親水性側鎖が、Y234またはY153のいずれかと結合した。一般に造影剤の投与量は、動作剤と比べ数千倍高いことを考慮すると、造影剤二分子が同時にこれらの残基と結合する可能性はあると予想できる。以上のことから、申請者は「造影剤二分子結合モデル」の提唱に至ったが、その妥当性について学会等の意見を踏まえて検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画では、初年度に解析用コンピュータの購入を予定していたため、科研採択早々、この申請研究に特化したコンピュータを選定し、予定の時期にコンピュータの購入とカスタマイズができた。コンピュータ購入後、解析に必要となる三種類のソフトウエア(量子化学解析ソフトウエア:Gaussian16W、分子動力学解析ソフトウエア:Auto-Dock、数値解析ソフトウエア:Mathlab)をインストールし、問題なくシミュレーションできることも確認した。 シミュレーション解析については、「研究実績概要」で述べたように、造影剤による嘔吐発症機構の解明に着手し、「造影剤二分子結合モデル」の提案に至ることができた。この結果については、当初、受容体内部に造影剤分子が侵入し、嘔吐を惹起すると、予想していたが、それとは異なる結果となり、ユニークな結果となった。この造影剤分子の挙動は、これまでにない新しい知見であるため、薬学を専門とする学会等で発表し、様々な意見交換を行った上で、このモデルの妥当性について検討を推し進めたいと考えている。さらに、このシミュレーション解析では、セロトニン5-HT3受容体を対象としたが、残り二種類の受容体でも、同様の現象が起こるのかもしくはこの受容体特有の現象なのかについて検討を進めたいと考えている。 本報告では、嘔吐発症機構について検討したが、本申請研究では、抗がん剤の一つである白金製剤(シスプラチン)の可視化と言うテーマも掲げている。そこで、これに関する予備研究として、臨床で使用されている油性造影剤(リピオドール)とシスプラチンの混濁液をDual Energy CT装置で撮像し、シスプラチンが画像化できるかを検討した。その結果、リピオドール単剤とは異なるエネルギ特性を示し、シスプラチンの可視化は可能であることが示唆された。 以上のことから、本申請研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度の進捗状況を踏まえ、以下の検討を行う予定である。(1) 分子動力学解析に基づく造影剤分子のシミュレーション解析、(2)肝動脈化学塞栓療法(TACE)施行時のシスプラチンの薬物動態特性のシミュレーション解析。 まず、項目(1)についてであるが、「現在までの進捗状況」で述べたように、本年度はセロトニン5-HT3受容体のみを対象に検討を実施したが、次年度はドーパミン受容体D2を対象に、本年度と同様の検討を行う予定である。その際、5-HT3受容体と同様の現象が起こるのかについて検討し、「造影剤二分子結合モデル」の妥当性を検証する。また、進捗状況に応じて、造影剤の重篤な副作用である血圧低下についても、検討を開始する予定である。 次に、項目(2)についてであるが、本年度後半、解析対象となる上腹部の数値ファントムの構築が終了した。そこで、臨床で使用されているCT装置と同じスペクトルを有するX線を仮想的にこのファントムに照射したところ、各臓器のCT値は実機によるものと同程度になることを確認した。さらに、本解析の対象薬剤であるシスプラチンは、二相性の代謝過程であることが、シスプラチンの添付書に記載されていたことから、肝細胞がんと動静脈系の2-コンパートメントモデルで薬物動態解析を行うことにし、この解析に必要となる様々な定数も、この添付書に記載されている薬物動態パラメータから推定することにした。その結果、実際の薬物動態と類似した特性が得られ、2-コンパートメントモデルによる解析には妥当性があることを確認している。そこで、上述した腹部数値ファントム及び薬物動態特性をもとに、肝細胞がん内で、経時的に変化するシスプラチンが可視化できるかを臨床条件に従って検証する。 これらの項目で得られた研究成果は、随時、国内外で開催される学会及び国際会議で発表し、最終的には投稿論文として世界に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時の計画では、初年度に解析用コンピュータの購入と学会発表のための出張費を予定していた。解析用コンピュータについては、「現在までの進捗状況」で述べたように予定通り購入でき、この解析に特化したカスタマイズもできたが、学会発表については、昨年9月に現地開催を予定していた第21回情報科学技術フォーラム(開催地:横浜市)が、コロナウィルスによるパンデミックの影響で、現地開催されなかった。そのため、この出張経費として計上していた交通費及び宿泊費が使用できなかった。次年度は、この繰越金と2023年度基金をもとに、更なる研究促進に使用する予定である。具体的には、(1)国内外で開催される学会・研究会・シンポジウム・国際会議に積極的に参加し、これまでの研究成果を発表すると共に、研究促進に必要となる情報収集に努める、(2)この期間内で得られた研究成果を学術論文としてまとめるため、英文校閲費や投稿・掲載料に充てる。さらに、不測の事態として、シミュレーション計算等に使用しているコンピュータ(本申請で購入したコンピュータ以外のものも使用して、計算の高速化を図っている)が使用不可能になった場合、研究推進上の問題となるため、コンピュータの購入費として充当する。これに関連して、シミュレーション結果を収納する電子媒体の容量が、想定以上に必要となっている。それ故、研究の進捗状況を見据えて、新たな電子媒体を購入する。
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