研究課題
2023年度は、新規無針注射器PJIを用いてアジュバンドは加えずに蛋白質投与による抗腫瘍ワクチン効果の増強とその作用機序について検討を行った。①抗腫瘍ワクチン効果:エンドトキシンフリーのOVA蛋白質をPJIおよび通常の有針注射器を用いて皮内投与を行い、2週間間を空けて2度免疫1週間後に、所属リンパ節細胞を蛍光標識したMHCクラスI/IIのOVA peptideテトラマーと抗CD4/抗CD8抗体で染色しFACS解析を行った。その結果、有針注射器では殆ど誘導されないが、PJIによる投与では、ポジコンで用いたAlumと同レベルに強いOVA抗原特異的CD8+T細胞を誘導した。OVA抗原特異的CD4+T細胞の誘導は、有針でもPJIでも殆ど誘導されなかった。しかし、血中のOVA特異的抗体価もIgG1とIgG2aともに、PJIで増強され有針注射器では増強されなかった。さらに、そこへ、EG.7-OVA腫瘍を植えても、PJIを用いて投与するとAlumと同レベルに強い腫瘍増殖の抑制効果、つまり、ワクチン効果を示すことがわかった。②作用機序の解明:作用機序を調べるために、Alex647標識OVA蛋白質をマウスにPJIまたは無針注射器を用いて投与し、12時間後皮膚から細胞を調製し、24時間後にはリンパ節細胞を種々の抗体で染色し、Alex647標識OVA蛋白質がどの細胞に多く入っているかを調べた。その結果、PJIを用いて投与すると有針注射器に比べ、皮膚細胞およびリンパ節細胞で共にクロスプレゼンテーション能力が高い樹状細胞(DC)であるXCR1+MHC ClassII+CD11c+DCやCD205+MHC ClassII+CD11c+DCに、さらに、リンパ節細胞では、CD86+MHC ClassII+CD11c+DCに多く取り込まれていた。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、新規無針注射器PJIを用いてアジュバンドは加えずにDNA投与のみならず、蛋白質投与でも、強いCD8+T細胞を介したワクチン効果を誘導することが明らかになってきているので。
2024年度は、新規無針注射器PJIを用いてアジュバンドは加えずに蛋白質投与による抗腫瘍ワクチン効果を増強する作用機序の検討と、さらに、mRNAワクチンの増強作用についても検討する。①蛋白質投与による抗腫瘍ワクチン効果増強の作用機序:昨年度までの検討より、クロスプレゼンテーション能力の高いDCに取り込まれ、DCの成熟マーカーCD86発現も増強されていたので、DAMPsの関与が考えられる。さらに、最近、PJIの火薬爆発による強力な推進力によりシェアストレスが発生し、さらに、シェアストレスがHigh mobility group box 1(HMGB1)発現を誘導しDCの成熟化を誘導する可能性も示唆された。そこで、PJIでOVA蛋白質投与後、皮膚より蛋白質溶解液を調製し、ウエスタンブロット解析により、HMGB1発現の増強や細胞質と核に分離し細胞内の局在を調べる。次に、HMGB1の阻害剤であるグリチルリチンをPJI投与前に投与し、OVA抗原特異的CD8+T細胞の誘導能や抗腫瘍効果へのHMGB1の関与を検討する。②mRNAワクチンの増強作用:COVID-19 mRNAワクチンの副作用の原因として、Pseudouridineを用いて炎症を軽減したmRNAのワクチン効果を増強するために用いたLipid nanoparticle(LNP)の炎症誘導作用が考えられている。そこで、OVAをモデル抗原として通常のUridineおよびPseudouridineを用いて作製したOVA mRNAを用いて、LNPの代わりにPJIで投与し、OVA特異的CD8+T細胞誘導の割合や、皮膚局所よりRNAを抽出しリアルタイムRT-qPCRおよび血清でのELISAより炎症マーカーであるTNF-aやIL-6の発現を比較検討し、PJIを用いて副作用である炎症誘導能が低いがワクチン効果が高い結果が得られないか検討する。
使用金額の端数を合わせることができなかったため、次年度使用が生じた。残金は、次年度の消耗品代に加えて使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件)
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