研究課題
ある目標に手を伸ばす到達運動は,成長過程において,運動精度や動きの滑らかさが上達することが知られている.本研究では,到達運動に関する体の動かし方を一から学習する脳内の運動学習メカニズムのモデル化やヒトを対象とした運動計測と解析を行い,筋シナジーと呼ばれる複数の筋の活動に内在する協調関係が形成される過程を明らかにすることを目指す.具体的な研究課題として,以下の二つの課題を設定する.まず,三次元空間内の任意の目標に対して手先を到達させるための複数の筋への運動指令を自律的に学習する到達運動学習モデルの構築と計算機シミュレーションを行う(課題1).次に,到達運動学習モデルの妥当性を検証するため,モデルが予測する筋シナジーの特徴が実際の運動中にも観測されるかを確かめる(課題2).2022年度は,三次元空間内の腕運動を計算機上でシミュレーションするための腕の数理的な筋骨格モデルを作成するとともに,強化学習を用いた運動学習モデルを3次元空間内の到達運動学習に適用する計算機シミュレーションを実施した.
3: やや遅れている
片腕二十個の筋肉と肩三自由度および肘一自由度からなる腕の数理的な筋骨格モデルを作成し,三次元空間内の腕運動の計算機シミュレーションが行えるプログラムをMATLABやC++言語による実装が完了している.さらに,研究代表者がこれまでに提案してきた二次元平面内の到達運動学習のための運動学習モデルを用いて,三次元空間内の到達運動学習に関する予備的な計算機シミュレーションを実施し,その結果,三次元空間内の任意の目標位置の方向へ手先を到達させることができることが確認された.一方で,目標位置に対する手先の到達点の誤差が数センチ程度となり,実際のヒトの到達運動と比較して精度が高くないことが確かめれた.また,予備的な計算機シミュレーションの実施に予定よりも時間がかかってしまったため,2022年度に行う予定であったモデル内のネットワークの改良やパラメータのチューニングが完了できておらず,進捗状況としては当初の予定よりもやや遅れている.
2023年度は,2022年度に用いた到達運動学習モデルを,多層の深層ニューラルネットワーク機構を導入し,計算機上で実現される到達運動の精度の改善を図る予定である.なお,運動精度の改善が進まない場合は,学習初期の筋活動がある程度高い状況になるようにニュラールネットワークの重みの初期値を設定する予定である.これは,過去の研究において,筋肉の同時活性度を高めた状態からの方が運動学習が成功する可能性が高いことが示されているからである.また,成人被験者による到達運動中のモーションキャプチャおよび表面筋電信号の計測実験を実施する.計測実験では,三次元空間内の様々な点から別の点への到達運動を被験者に行ってもらうとともに,それらの運動の手先の初期位置および終了位置をモーションキャプチャのデータから求める.また,運動中の表面筋電信号データに非負値行列因子分解を適用することで筋シナジーパターンを算出する予定である.
当初はGPU搭載のワークステーションを購入する予定であったが,半導体不足の影響による計算機の品不足により2022年度内の購入が難しいと判断した.また,2022年度に購入できなかったワークステーションは次年度に購入する予定である.なお,プログラムの開発作業はGPUが搭載されていない計算機で行ない,研究の進行への影響を最小限に止めるようにした.
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Actuators
巻: 11 ページ: 167~167
10.3390/act11060167