研究課題/領域番号 |
22K12780
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
上野 裕則 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70518240)
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研究分担者 |
石田 駿一 神戸大学, 工学研究科, 助教 (80824169)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 繊毛 / 脳室 / 水頭症 / ダイニン |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、脳室内の流体解析と数値流体力学を用いて水頭症の原因を解明する事である。現在まで、脳室に存在する繊毛の運動不全によって水頭症の症状が現れることが報告されているが、なぜ繊毛運動の異常が水頭症を引き起こすかは謎であった。しかし、申請者によるこれまでの研究により、この水頭症の原因が側脳室と第3脳室を繋ぐモンロー孔近傍の流れであるという可能性を見出している。今年度は主に側脳室と第3脳室における抗アセチル化チューブリン抗体と抗DNAH1抗体を用いて間接蛍光抗体法による免疫染色を行い、野生型マウスとDpcdノックアウトマウスのそれぞれの脳組織における両者のタンパク質レベルでの発現量を解析した。その結果、側脳室と第3脳室の繊毛にDNAH1が局在していることが分かり、さらにDpcdノックアウトマウスの側脳室ではDNAH1の蛍光が弱くなることが分かった。野生型マウスとDpcdノックアウトマウスの両者でDNAH1の蛍光強度を定量的に解析したところDpcdノックアウトマウスではDNAH1の蛍光強度が野生型マウスと比べおおよそ半分に減少していることが分かった。しかし、第3脳室では約5%ほどDpcdノックアウトマウスの方が蛍光強度が増加していることが分かった。この結果から、脳室ごとにダイニン重鎖の繊毛における発現量に違いがあることが分かった。水頭症は主に側脳室が肥大し、第3脳室ではあまり変化が見られないことから、ダイニン重鎖の発現量が関与している可能性が考えられる。また、クライオ電子線トモグラフィー法による脳室繊毛の構造解析を開始しており、すでに野生型の傾斜像の撮影に成功しており、今後の研究の進展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水頭症は主に側脳室で脳室肥大が見られ、第3脳室ではほとんど変化が見られないことから側脳室と第3脳室をつなぐ管であるモンロー孔付近に水頭症の原因となる要因が隠されているのではないかという仮説を立て、本研究を行っている。本研究では野生型マウスと水頭症を発症するDpcdノックアウトマウスの両者において、内腕ダインの一種であるDNAH1のタンパク質レベルでの発現量の違いがあるのではないかと考え実験を行った。先行研究により、DNAH1の遺伝子発現量がDpcdノックアウトマウスでは低下することが定量PCRの結果明らかとなり、本研究ではさらに発展させタンパク質レベルでの発現量の解析を行った。免疫組織学的にDNAH1のタンパク質レベルでの発現を解析するため、抗DNAH1抗体と抗アセチル化チューブリン抗体の免疫染色法を用いて解析を行った。コントロールとして抗アセチル化チューブリン抗体を用いた免疫染色法を行い、アセチル化チューブリンに対するDNAH1の相対的な蛍光強度の違いを解析した結果、側脳室ではDNAH1のタンパク質レベルでの発現量が低下しており、第3脳室では逆に微量ではあるが増加することが分かった。これは、著しく脳室肥大を起こす側脳室と、脳室の大きさにあまり変化を生じない第3脳室において、DNAH1の発現量の違いと脳室の肥大の表現型が一致していることになる。また、クライオ電子線トモグラフィー法により脳室の繊毛の3次元構造解析を行うため、まずは野生型マウスの脳室繊毛の傾斜情報を得ることに成功した。今後は3次元構造解析に向けた画像解析を行い周辺微小管上にどのようにダイニンが配列しているかを解析すると同時に、Dpcdノックアウトマウスの軸糸構造の解析も試みる。以上の結果より、本研究の進展はおおむね順調に進んでおり、今後の研究成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果によって側脳室と第3脳室において、タンパク質レベルでのDNAH1の発現量の違いが検出された。今後はよりモンロー孔付近の繊毛について解析を行うと同時に、他のダイニン重鎖についてもタンパク質レベルでの発現量の解析を行う。DNAH1と同種の内腕ダイニンであるDNAH6やDNAH12について既に解析を始めており、これらのダイニンについても側脳室と第3脳室の違いに着目しながら解析を行う予定である。また、クライオ電子線トモグラフィー法によって繊毛内部の軸糸構造の3次元構造を解析し、3次元構造レベルでの野生型マウスとDpcdノックアウトマウスの違いを見出したい。すでに大阪大学蛋白質研究所のTitan Kriosを使用し、野生型マウスの脳室繊毛の傾斜情報を得ることに成功している。今後は得られた野生型マウスの傾斜情報をもとに画像の分類や平均像の計算を行うことによって3次元構造を明らかにし、繊毛内におけるダイニン重鎖の微小管上で配置を明らかにするとともに、Dpcdノックアウトマウスの繊毛の軸糸構造についても同様に解析を行う予定である。分担者である神戸大学の石田駿一先生には共同で脳室内の流体シミュレーションを行う。
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