研究課題/領域番号 |
22K12787
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉田 哲 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (00365438)
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研究分担者 |
畑 純一 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 客員研究員 (00568868)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | コネクトーム / MRI / トラクトグラフィー / 造影剤 / AAVベクター |
研究実績の概要 |
近年、コネクトーム研究とよばれる、脳の神経回路の走行をすべて決定することにより、脳機能解析の礎とする研究が世界中で活発に行われている。この研究において、MRIをもちいてニューロン内部の水分子の動きを計測し、そのデータをもとに軸索走行を擬似的に可視化するトラクトグラフィーは強力なツールであるが、実際のニューロンの形態との比較は行われておらず、その正確性は証明されぬまま現在に至っている。そこで、本研究の目的は、トラクトグラフィーとニューロンの形態の比較を可能とするために、MRIをもちいてニューロンそのものの形態を計測する方法を確立することとする。 これまで、MRIをもちいてニューロンを観察できなかったのは、ニューロン特異的に取り込まれる造影剤が存在しなかったためである。本研究では、「造影剤を細胞に取り込ませる遺伝子」をニューロン特異的に発現させることにより、MRIによるニューロンの検出を可能にする。また、MRIでニューロンを可視化した脳は、その後、組織学的解析を行い、その正当性を評価する。そのために、「MRI造影剤を細胞に取り込ませる遺伝子」を発現させる細胞には、同時にGFPなどの遺伝学的マーカーを同時に発現させる。これら2つの遺伝子を発現するAAVベクターを作製し、マウスの脳にインジェクションし、その後、そのマウスに造影剤を投与した上でMRIで撮像し、そのマウスの脳を免疫組織学的に解析してどのニューロンに上記遺伝子が発現しているかを調べる。そして、MRI画像と免疫組織学的解析を行った画像を比較を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、まず、MRI造影剤ガドリニウムを細胞内に取り込む陰イオントランスポーターSlco1a1遺伝子のクローニングを行った。次に、この遺伝子とGFPを同時に発現する発現ベクターを作製し、培養細胞にトランスフェクションし、その細胞にガドリニウムを加え、MRI撮像を行うことにより、GFPを発現する細胞がガドリニウムを取り込むことを確認した。 また、別のMRI造影剤SPIO(ビオチン化されたもの)を細胞表面に結合させることができる人工遺伝子として、「細胞表面エピトープ・ディスプレイシステム」を用いてストレプトアビジンを発現させることを計画していた。この遺伝子とGFPを両方発現するコンストラクトを作製し、培養細胞に豚ラスフェクションしたところ、細胞内にGFPの凝集体が形成されていた。タンパク質の高次構造形成の過程で、細胞外に出られなかったことが予想される。 そこで、本研究のこれ以降の実験は、ガドリニウム造影剤を使用した系のみ行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
MRI造影剤を取り込む遺伝子およびGFPを発現するコンストラクトを作製することができたので、これを発現するAAVベクターを作製し、マウスの脳にインジェクションする。このマウスに、MRI造影剤を投与し、MRI撮像を行い、ニューロンを可視化する条件を検討する。 MRIで直接ニューロンを可視化できる条件が整ったら、撮像後のマウスの脳を固定し、組織学的解析を行い、AAVベクターがインジェクションされた位置を検討する。このMRI画像と組織学的解析像を比較することにより、MRIが撮像したニューロンが本当にニューロンであるかどうかを検討する。 さらにMRIで撮像したニューロンとトラクトグラフィーを比較することにより、トラクトグラフィーの正当性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画を、科研費に採択される前から開始しており、遺伝子のクローニングなど試薬代の必要な実験は概ね終了していた。そのため、今年度は、作製したDNAを培養細胞にトランスフェクションするなどの実験を中心に行ったため、研究費をそれほど必要としなかった。 来年度は、今年度に作製したDNAからAAVベクターを作製し、マウスにインジェクションを行い、MRIで撮像するなど、費用がかかる実験を多く行う必要がある。そのため、今年度使用しなかった費用を、来年度に繰り越すためにこのように使用した。
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