研究課題
地球上には10億人以上の肥満患者がいると報告されているが、多くの患者に適用可能な治療法は依然確立されていない。ひとつの有望な戦略として、熱産生によってエネルギーを消費する脂肪細胞であるベージュ脂肪細胞の数を増加させる方法が挙げられるが、治療法としての確立にはまだ至っていない。ひとつの大きな課題は、脂肪組織内の多様な前駆細胞集団の中で、ベージュ脂肪細胞への分化指向性の高い前駆細胞の同定・単離が達成されていないことであると考える。組織の前駆細胞集団には、エネルギー消費能が低い白色脂肪細胞への指向性が高い前駆細胞なども含まれていると考えられるため、組織由来の前駆細胞集団を用いた解析はノイズの多いものとなる。それ故、ベージュ脂肪細胞へと分化しやすい前駆細胞を単離することが、ベージュ脂肪細胞の分化メカニズム解析などに有用となる。そこで本研究では、ベージュ脂肪細胞の前駆細胞を形態学的に同定し、選別可能にすることで、新たな抗肥満戦略構築のための技術基盤を確立することを目標とする。本年度は脂肪前駆細胞株を用いて、1細胞分化誘導系の構築を進め、また、マイクロ液滴系を用いた、1細胞経時計測系の開発・概念実証を行なった。他細胞が周辺に存在しないような、空間的に隔離された1細胞でも分化し得る条件の設定は、ベージュ脂肪前駆細胞の単離に必須である。そこで、さまざまなハイドロゲル中での三次元培養を試行することにより、その可能性を見出した。加えて、直径80マイクロメートルの微小液滴内で1細胞ごとを培養し、そのダイナミクスを約2日間に亘り経時計測する系を開発した。さらには、概念実証実験として、1細胞ごとからの細胞外小胞放出ダイナミクスの計測を、332細胞に対して並列に行うことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
脂肪細胞の分化系の最適化は少々遅れているものの、予想外の進展として、1細胞経時計測系の開発・概念実証を早期に達成し、論文報告に至った。
当初の予定通り、1細胞分化誘導系の最適化を進めつつ、より分化効率を上昇させるため、1細胞由来のスフェロイド系の構築へと発展させる。これにより、脂肪分化系列イメージングによる、ベージュ脂肪前駆細胞の形態学的な同定へと進んでいく。
1細胞経時計測系の開発に、当初予定していなかった発展があったため、本年度はそちらに注力した。それに伴い、細胞培養に要する費用などを次年度に繰越し、細胞分化条件の検討などを集中的に行うこととした。
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Analytical Chemistry
巻: 94 ページ: 11209~11215
10.1021/acs.analchem.2c01609