研究課題/領域番号 |
22K12819
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巣山 慶太郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エラスチン様ペプチド / 自己集合能 / 温度応答性分子 / 光応答性分子 |
研究実績の概要 |
本研究では、天然アミノ酸を原料とすることで生分解性・生体適合性が高く、温度依存的可逆自己集合(コアセルベーション)特性を示すエラスチン由来の合成ペプチド・ELP(Elastin like peptide)を母体として、光照射により薬剤放出の時間的・空間的な制御を可能とするペプチド性薬物送達担体を開発する。 本研究は3年計画であり、初年度にあたる本年度においては、天然エラスチンタンパク質の疎水性ドメインに存在する繰り返しアミノ酸配列・VPGVG配列を模倣し、より高い自己集合能を示すFPGVG配列のペプチドをベースとして、より短鎖で自己集合を示すELPの開発を行った。また、光応答性分子としては、光照射によって可逆的にシス・トランス異性化するアゾベンゼンの誘導体を合成し、これと短鎖ELPを組み合わせたアナログの化学合成を行うとともに、その自己集合能の評価を実施した。具体的には、アゾベンゼン誘導体の2個の芳香環にそれぞれ短鎖ELPである(FPGVG)2および(FPGV)2を付加した直鎖状、あるいはダイマーペプチドに類似したアナログと、環状FPGVGペプチドの繰り返し配列の間にアゾベンゼンを挿入したアナログの合成を実施した。短鎖ELPは一般的なFmoc固相合成により合成し、アゾベンゼン誘導体の合成ならびにペプチドとアゾベンゼン誘導体の縮合を液相反応で実施することにより、複数種類のELPを得ることに成功した。また、ペプチドの有する官能基の状態により、合成したペプチドの水溶性や凝集特性を制御可能であることを示唆する知見を得ることができた。これらの結果により、次年度以降の温度・光応答性評価に用いるELPアナログを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の方針は概ね予定通りであり、初年度において目的のペプチドアナログを合成することができた。本年度は、温度・光応答性を有するELP アナログのプロトタイプの開発と性状解析を実施した。近年の当研究室での研究成果により、FPGVG配列を有するELPは、ダイマー化・多量体化・芳香族アミノ酸の導入ならびに環状化によって温度応答性を増強できることが明らかとなった。これに加えて、配列中のグリシン残基を削除したFPGV配列は、FPGVG配列と比較して短鎖でありながら、さらに高い自己集合能を示すことを見出した。そこで、これらの短鎖ペプチドと光応答性分子を組み合わせ、光応答性ELPアナログの開発を実施した。ベンゼン環にカルボキシ基を有するアゾベンゼンに(FPGVG)2(10残基)もしくは(FPGV)2(8残基)をN末端アミノ基で縮合したダイマータイプのペプチドは、疎水性が高くいため低温・低濃度での凝集体形成が見込まれた。しかしながら、水溶性の担保に関与するペプチドのN末端アミノ基がアミドに変換されたことと、アゾベンゼンの芳香環とペプチドの芳香環の相互作用によって強固な凝集体を形成することにより、水系での使用が困難なほど溶解度が低下し、改良が必要であることが判明した。そこで、親水性アミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸等をベースとなるELPに導入することで、適度な水溶性を有するELPの合成に成功した。これらのペプチドは、水溶性がpHによっても変化するため、温度・光に加えて、さらにpH変化にも応答するペプチド性分子素材となりうることが示唆された。また、カルボキシ基とアミノ基を有するアゾベンゼンの誘導体を合成し、これに直鎖ペプチドのN末端・C末端を縮合させることで環状化したペプチドアナログの合成も達成した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、合成したペプチドの温度応答性・光応答性の解析を行う。アゾベンゼンのシス・トランス異性化の条件検討と、それぞれの異性体における温度応答性の評価を濁度測定により実施し、ペプチドの温度応答性に対する分子構造の影響ならびに光異性化による制御の可能性を検討する。具体的には、合成した光感受性ELPについて、蛍光分光光度計を使用し、温度、時間経過および光照射による凝集状態の変化を濁度測定、粒径測定ならびにチオフラビンを用いた蛍光測定により調査する。合成ELPの水溶液を10-0.5 mg/mLの濃度範囲で調製し、温度・光照射の条件を変化させて凝集に伴う溶液の濁度変化、凝集体の粒径の変化を追跡する。これにより、体温(37℃)付近でEPR効果に適した約100 nmとがん組織への蓄積に適する数マイクロメートルの凝集体サイズの切り替えが可能か、凝集体構造を長時間(数日程度)保つことができるか、光照射(赤色もしくは近赤外光)による凝集状態の制御が可能か、について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、参加予定であった学会の一部がオンライン開催となったこと、また、購入予定であった物品の一部が生産・入荷できず購入できなかったことが原因で、物品費・旅費として予定していた部分の予算が次年度使用額として生じた。これについては、2023年度に合成用試薬や精製用装置の交換部品等に充てる予定である。
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