研究課題/領域番号 |
22K12825
|
研究機関 | 至学館大学 |
研究代表者 |
保住 建太郎 至学館大学, 健康科学部, 教授 (10453804)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | ラミニン / 基底膜 / 細胞外マトリックス / 細胞接着 / ペプチド / キトサン |
研究実績の概要 |
生体内の器官発生プロセスにはさまざまなパターンがある。唾液腺や乳腺、腎臓などの器官発生時には、上皮系細胞が、間葉系細胞の構築する細胞と細胞外マトリックスを主体とする間葉組織に貫入していくことによって形成される。貫入時の器官原基周囲は間葉系とは異なる非常に薄い細胞外マトリックスである基底膜が形成されることが広く知られている。基底膜の組成は発生の各ステージや組織によって異なる。基底膜の主要な構成成分で細胞外マトリックスタンパク質の一種であるラミニンは、基底膜タンパク質中で最も多くのアイソフォームを有していることから、基底膜の組成と機能のバリエーションはラミニンによっている可能性が高い。本研究計画はラミニンに注目し、腺組織原基の発生・分化に適した細胞外環境の基質特性を解明し、唾液腺細胞や各種幹細胞を始めとした細胞分化の誘導を可能とする細胞培養プラットフォームとしての人工ラミニン(ラミニン由来活性ペプチド-キトサンハイドロゲル)の開発を目的とした。 令和四年度は本研究計画で得られた結果のうち、主に細胞培養プラットフォームの開発に関する研究で得られた成果を学会発表として報告した。キトサンハイドロゲルに固定化するラミニン由来でそれぞれが特異的な受容体に結合する細胞接着活性ペプチドとしたところ、固定化した活性ペプチドに応じてペプチドの特性を有する細胞培養プラットフォームとすることが可能となった。また、細胞接着活性ペプチドを混合した状況下で架橋化反応を進行させたラミニン由来活性ペプチド-ジカルボン酸-キトサンハイドロゲルは、ペプチドの種類特異的な細胞接着活性を示した。これらの得られた結果について学会にて報告をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和四年度から新たに始まった本研究計画であるが、研究代表者自身が新たな大学へ令和四年四月から異動となった。研究試料の運搬、研究室の立ち上げ、遺伝子組換え・危険物取扱いなどの研究に関する資格取得や実験計画書申請、講義の準備など、研究以外の業務がどうしても多くなり思うように研究を進められなかった。特にペプチド合成をともなう合成系の研究設備がなかったために、研究施設の更新を含めた設備などの設置に時間を要した。幸い独立基盤形成支援事業に採択いただいたため、ペプチドの合成に必須となる高速液体クロマトグラフィーと凍結乾燥機を新たに導入できた。しかしながら、世界的に大きな影響をおよぼしている半導体不足のため納期が遅くなり、機器の導入は令和五年一月に入ってからであった。 これらの影響もあり細胞培養プラットフォームに関する研究に対しては、全研究施設から搬入してきた試料のみを用いて実施し、新たな合成ペプチドを利用した研究は翌年度に持ち越すこととした。また、同時に実施する組み換えタンパク質系の研究に関しては年度内に取り組むことが可能であったため、現時点では様々な発現ベクターの作製と組み換えタンパク質の精製をすすめている。 令和四年度は、異動一年目ということもあり研究に費やす時間の縮小を強いられたため、計画の完遂には届かない状況であった。特に合成ペプチド系の予算を利用することができなかったために、研究費の執行率を85%程度とし残る15%を令和五年度に執行することに計画を変更した。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞外マトリックスを模倣した多くの人工培養基質が開発されてきたが、主眼は細胞接着性と分化傾向に適した固さの提供である。しかしながら、細胞外マトリックスは細胞-細胞外マトリックスだけでなく、細胞外マトリックス-細胞外マトリックス相互作用からなるゲル状構築物を形成する。このことから、培養プラットフォームの特性には、培養細胞から分泌される内因性細胞外マトリックス分子との相互作用も重用なファクターとして取り入れたほうが良い可能性は高いが、これまであまり考慮されてこなかった。本研究計画では、オルガノイド形成に伴って発生している基底膜中のラミニンのターンオーバーを解析し、得られた知見を活用することでオルガノイド培養プラットフォームとして最適化することを目的としている。計画の実行に向けて、「どのタイプのラミニンヘテロトライマー種が、どのような秩序で置換されているか」という問いを明らかにするために、1- ラミニンヘテロトライマー構造を認識する抗体を作製し、分泌ラミニンヘテロトライマーのアイソフォーム変遷を解明し、2-ラミニンヘテロトライマー結合ペプチドを同定することで、基底膜再構築を理解へとつなげる。 1の目的達成に向けては、計画の一年目に実施してきたようにラミニンヘテロトライマー部分の組み換えタンパク質を大量に用意して抗体の作成に、今年度中に着手する。また、組み換えタンパク質のみで十分な成果が得られなかった場合に向けて、合成ペプチドを利用した抗原のデザインと合成にも着手していく。2の目的達成に向けては、ペプチドの化学合成がほぼ施設内で可能となったことから、ラミニンヘテロトライマーに結合する細胞外マトリックスタンパク質をラミニン由来合成ペプチドを利用することでスクリーニングする。逆にラミニン由来合成ペプチドに結合する細胞外マトリックスタンパク質に関しても検討を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和四年度は、異動一年目ということもあり研究計画当初に予定していた機器類(ペプチド合成関係)が設置されていなかったため、研究を実施できなかった。計画予算として計上してあった合成ペプチド系の物品費を利用することができなかったために、研究費の執行率を85%程度とし残る15%を令和五年度に執行することに計画を変更した。なお、基盤形成支援事業による支援で、上記の機器が令和四年度末に導入されたため、令和五年度は計画通りの執行を予定している。
|