研究課題/領域番号 |
22K12831
|
研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
後藤 浩一 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (30279377)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | メソポーラスシリカナノ粒子 / がんワクチン / 樹状細胞 / サイトカイン / 抗体 / 液性免疫 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノサイズの多孔質シリカ粒子(メソポーラスシリカナノ粒子Mesoporous silica nanoparticles(MSN))を用いた新しいがんワクチンの免疫誘導機能について検討することを目的としている。本年度は、平均粒径約250 nmで単分散のサイズ分布を示し、4 nmのポアサイズをもったMSNを用いて実験を行った。ニワトリ卵白アルブミン(OVA)をがん抗原のモデルとし、ワクチンの成分として、マウスのCD8+ T細胞とCD4+ T細胞をそれぞれ刺激する2種の抗原ペプチド(エピトープペプチド)、また、抗原提示細胞である樹状細胞を刺激するCpGオリゴヌクレオチド(Toll-like receptor (TLR)-9のリガンド)やリピドA(TLR-4のリガンド)を減圧濃縮によりMSNに封入し、ワクチンサンプルを調製した。C57BL/6マウス由来の樹状細胞株(DC2.4細胞)を用いた実験では、培地にMSNワクチンのサンプルを添加して細胞を培養し、24時間後の培地をELISAで分析したところ、コントロールと比較し、サイトカインIL-1βの濃度が増大する傾向が観測された。MSNワクチンがDC2.4細胞に取り込まれ、MSNやワクチン成分がDC2.4細胞を刺激することにより、IL-1βの産生を促進した可能性が示唆された。一方、ワクチンサンプルをC57BL/6マウスに皮下投与後、腹大静脈から採血し、血清中の抗体について分析した。今回の実験条件では、コントロール群と比較し、MSNワクチン投与群の血清において、がん抗原のモデルとして用いたOVAに特異的なIgG抗体の増大が観測され、MSNワクチンにより獲得免疫における液性免疫が誘導されたことが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で調製したMSNのワクチンサンプルについて、培養樹状細胞を用いた実験から、MSNワクチンは抗原提示細胞に直接作用してサイトカインIL-1βの産生を促進する可能性が示された。IL-1βは、獲得免疫における細胞傷害作用で中心的な働きをするリンパ球(T細胞、B細胞)を刺激して活性化を促進することが知られている炎症性サイトカインである。ワクチン成分をMSNに封入して投与することにより、サイトカインの産生を介し、リンパ球を刺激して獲得免疫の誘導を増進させることが考えられる。また、MSNワクチン投与マウスにおいて、血中の抗原特異的なIgG抗体の増大が観測された。一般に、抗原を投与して液性免疫を誘導する場合、高分子(ポリマー)量の抗原体を必要としているが、MSNをワクチンキャリアーとして用いることにより、中分子(オリゴマー)量の抗原でも抗原特異的な抗体を産生できることが示され、獲得免疫における液性免疫の誘導にMSNワクチンが有効であることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
MSNワクチンのサンプルを調製し、マウスに接種して獲得免疫の誘導効果についてin vivoで検討する。MSNワクチンとして、T細胞やB細胞の活性化に係るがん抗原モデルのOVAペプチドや不活性化に係るPD-1やPD-L1の抗原ペプチド、および樹状細胞を刺激するCpGオリゴヌクレオチドやリピドAを減圧濃縮により封入したワクチンサンプルを調製する。ワクチンサンプルの成分や投与量を変えてC57BL/6マウスに皮下投与し、抗原特異的な抗体産生誘導について検討する。サンプルの投与期間中、状態観察や体重測定などを行いMSNワクチンの安全性を確認する。MSNワクチンの誘導する免疫が生体においてがんの増殖を抑制できるかを観測するために、ワクチンサンプル投与後、所定の日数経過したマウスに培養がん細胞を移植する。がん細胞には、OVA遺伝子を導入したC57BL/6マウス由来のリンパ腫細胞を使用し、マウスの腹腔に移殖する。がん細胞移植後のマウスについて、がん細胞の増殖や生存日数を観測し、MSNワクチンにより誘導されるがん抑制の免疫効果について検討する。
|