研究課題/領域番号 |
22K12878
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研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
齊藤 浩一 東京工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (00205668)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 採血 / 蚊 / パラレルリンク / 順運動学 / 逆運動学 |
研究実績の概要 |
本研究では採血支援機の開発のためにインセクトラクチャー(INSECTt+sTRUCTURE)に基づき、蚊の吸血における針の位置決め・姿勢制御のメカニズムを模倣し、従来のフレーム構造とリンク機構では実現できなかった超小型・軽量・静音な血管穿刺機構の開発を目指している。蚊は6本の脚を有し、体と針の姿勢を調整して吸血動作を実行する。本研究では採血に必要な一連の動作を実現できる運動機構を以下に示す蚊の特徴に基づき設計する。 ・6本の足で針先の位置と姿勢を制御する。・質量のある胴体部を脚機構の一部(第二関節)より低く位置付けることで低い重心を確保して安定した姿勢を維持する。・脚機構の胴体取り付け部を集中させることで第一関節に広範囲な可動角度域を確保する。・胴体の吊り角度を小さくすることで脚構造体のたわみを抑制する。・折り曲げ構造により脚長を確保し、広い可動域を得る。 【装置の概要】本機構は6本の駆動脚の関節角度により位置・姿勢の6自由度が決定されるパラレルリンク機構である。前後・上下・左右方向にそれぞれ±20mmの並進運動とロール軸・ピッチ軸・ヨー軸にそれぞれ±30度の回転運動の可動域を持つことを目標とする。大きさは全長5-10cm程度以下とする。 【蚊の駆体ロボットの脚部の設計】各脚は蚊の駆体構造と脚の自由度に基づき下記の基本仕様に基づき設計する。・脚の自由度:一本当たりの脚の自由度は5自由度とする。機構は平面的なBaseに固定するため、蚊の脚構造より自由度を減らし1自由度とする。・関節構造とアクチュエータ:リードスクリューのリニアリンクを用いることで十分なトルクを確保した脚の駆動方式のリンクモデルを並行して試作し、回転リンク駆動方式と比較検討する。リニアリンクは生物の関節では実現されてない機構であり、ハイブリッドに活用することで生物を超えた効率的なリンクの実現が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度として採血に必要な一連の動作を実現できる運動機構を以下に示す蚊の体構造における特徴と外骨格や関節の構成に基づき設計した。本機構は6本の駆動脚の関節角度により胴体部の位置・姿勢が決定されるパラレルリンク機構である。空間の自由度は6自由度であるが、機構の設計においては針の軸回転(ロール)は採血動作に不要でありピッチ動作も穿刺時には発生しないため、機構の自由度は4とした。機構全体の大きさを40×40×40mm、各自由度の動作範囲をX:±10mm、Y:±10mm、Z:0-20mm、ヨー:±15度とし、アクチュエータの発生トルクは機構自体の質量を駆動可能なこととした。 以上の条件のもと、動作範囲と負荷トルクについて順運動学モデルを用いたシミュレーション(動力学シミュレータ(ODE)を利用)により確認したが、ジョイントを全て回転機構とした場合、必要なトルクを発生可能なモーターは大きさ・重量的に非現実的なものとなった。特に蚊の体構造は脚が長いことが特徴であるが、作用点までの距離が長いと必要な負荷トルクが大きくなる。そこで第2関節を従動回転リンクとし、第2リンク長をリードスクリュー機構で可変とすることで小型モーターの利用を可能とすることとした。 再設計したリンク機構の動作をシミュレートした結果、各自由度の動作範囲はX:±15mm、Y:±15mm、Z:0-25mm、ヨー:±25度、アクチュエータの必要トルクは1.0Nmが得られ、要求仕様をカバーする動作範囲と調達可能な部材条件が得られた。 また今後、設計した4自由度パラレルリンクロボットの動作制御を行うための準備としてヨー角で与えたボディーの姿勢を表すベクトルと空間上の座標に対する各リンクの関係を表す逆運動学を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は採血支援システムが患者に与える威圧感を低減させるために小型の穿刺ロボットを設計し、運動学をもとに動力学シミュレータで位置・姿勢制御をシミュレートした結果、X・Y・Z方向およびヨー角において動作範囲を満たしていることが確認できた。またシミュレーションでモータへの負荷トルクを確認できた。 今後は設定した動作範囲を満たし、尚且つより小型化できるようなパラメータを調整して実機を製作する。機構全体は6本の脚にて駆動されるが、まずは1本の脚の構造を構築してアクチュエータを組み込み、関節角度とリンク長の動作範囲および応答性を評価する。脚全体は昆虫を模した外骨格構造とする。フレームは強度を要する部位を軽量金属とし、その他を三次元プリンターで出力した樹脂部材とすることで強度と重量のバランスをとることとする。また駆動制御用の配線材は外骨格内に配置できるように専用の中空空間を配置することとする。 アクチュエータの動作制御はマイコン(Arduino)で行うこととし、リアルタイム動作と各脚2個のアクチュエータ(脚6本で計12個)が同時制御可能なプログラムが開発可能な環境を整備する。 1脚における動作確認の後、6本の脚から構成されるリンク機構を構築し、動作範囲と応答性などの基礎特性を確認する。最終的には指示した任意通りの動作が行える駆動制御を行うが、パラレルリンク機構は逆運動学が複雑であり処理系の負荷が高く、また特異点による制御不可に陥ることもある。そこで典型的な採血動作(針穿刺の軌跡)を元に各アクチュエータの動作範囲を制限することで制御の簡易化を図り、さらには動作不安定による針のブレなどを防止できるような動作制御を試みる。
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