研究課題
ヒトiPS細胞は分化多能性を持つため、様々な細胞に分化することが可能である。しかしながら、神経や心筋など各種分化細胞への分化しやすさ(分化指向性)は細胞株ごとに異なることが明らかになっている。これまでの研究において、核内タンパク質であるSALL3がGene body領域のDNAメチル化を調節することにより、複数の転写因子の発現を制御し、ヒトiPS細胞の分化指向性に非常に重要な機能を持つことを明らかにしている。本研究の目的は、これまで解明されていないSALL3によるプロモーター/エンハンサー領域における遺伝子発現制御機構を明らかにすることにより、ヒトiPS細胞の分化指向性の原因となるメカニズムを解明することである。WT株、SALL3 KO株の神経分化時(Day0, 3, 10)におけるTotal RNAを用いマイクロアレイ解析を行い、SALL3が関与する転写調節を網羅的・経時的に解析した。また、これまでにLC-MS/MS解析により、DNMT3Bとは異なるSALL3相互作用タンパク質を複数同定し、免疫沈降実験でのウエスタンブロットにより結合確認実験を行った。これらのタンパク質の中にはiPS細胞の神経分化に関与するタンパク質と考えられる物も含まれており、ヒトiPS細胞の分化指向性に非常に重要な機能を持つ可能性は高いと考えられる。これから神経分化時における経時的マイクロアレイ解析、ChIP-Seq解析、ATAC-seq解析等のマルチオミックス解析を進めていく。
2: おおむね順調に進展している
これまでにSALL3とDNMT3BとのヒトiPS細胞における物理的相互作用を明らかにしてきたが、タンパク質相互作用データベース(BioGRID)において、SALL3はDNMT3A, OCT3/4, SOX2, NANOG, CHD7等、幹細胞の遺伝子発現を制御する重要な転写因子と相互作用することが報告されている。そこで、ヒトiPS細胞でSALL3と相互作用するタンパク質をFLAG-SALL3を用いたプルダウンアッセイ、LC-MS/MS解析を行うことにより網羅的な探索・同定を試みた。まず、未分化状態(Day0)におけるSALL3結合タンパク質解析を行い、複数の転写因子を同定し、免疫沈降実験でのウエスタンブロットにより結合確認実験を行った。また、WT株、SALL3 KO株の神経分化時(Day0, 3, 10)におけるTotal RNAを用いマイクロアレイ解析を行い、SALL3が関与する転写調節を網羅的・経時的に解析した。
神経分化過程における経時的なマイクロアレイデータを元に上流解析等を用いて、遺伝子発現調節機構の解析を進める。並行して、最初の実験で得られたSALL3と物理的相互作用する転写因子について、WT株、SALL3 KO株(WTに比べ神経分化効率低下)を用いて神経分化時における経時的ChIP-Seq解析を行う。並行して、マイクロアレイ解析においてWT株とSALL3 KO株間で遺伝子発現に差のある遺伝子と、ChIP-Seq解析においてWT株とSALL3 KO株間でプロモーター/エンハンサー領域において差のある遺伝子との間で重複する遺伝子を抽出する。このマルチオミクス解析を通して、SALL3によるプロモーター/エンハンサー領域における遺伝子発現制御機構に重要な分子郡の同定を試みる。
網羅的オープンクロマチン領域解析、ATAC (Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput)-Seq法について、当初使用を予定していた試薬のバージョンが変更になり予備検討が必要になったため、R4年度に購入予定であったATAC-Seq試薬をR5年度に購入することに変更したため。
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再生医療
巻: 1 ページ: 30-35
Nature Communications
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