研究課題/領域番号 |
22K12903
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
張 麓ルウ 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (50392634)
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研究分担者 |
花田 幸太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究主幹 (00357790)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生分解性マグネシウム / 初期分解挙動 / In vitro / In vivo / 表面分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,医療応用が期待されている生分解性Mg材料を対象に, In vitro(浸漬)試験とIn vivo(家兎埋植)試験における材料の生分解挙動とその関連性を解明し,生体内のMg分解挙動を適切に再現できるIn vitro試験法を確立することである.令和4年度では、分解初期の挙動を明らかにするために,純Mgを細胞培養液(DMEM+10%FBS)に1日の浸漬,また家兎の大腿骨端部と背部皮下に1日の埋植を実施し,走査電子顕微鏡(SEM)及びX線光電子分光法(XPS)を用いて表面分解生成物の観察と組成分析を行った.浸漬試験及び家兎埋植試験のいずれのMg表面においてMg(OH)2,Ca-phosphateとMgCO3等の分解生成物の存在が確認され,浸漬試験試料表面の分解生成物には亀裂が,埋植試料表面の分析生成物には亀裂に加え局部的な剥離も観察された.また,浸漬試験結果から,Ca-phosphate層は緻密であり保護層としてMg表面の腐食挙動に大きく影響し,その生成は緩衝系の重炭素イオン濃度に依存することが分かった.具体的には,重炭素イオン濃度が低い場合には,Ca-phosphate層が生成しやすく腐食が抑制され,表面が相対的平坦であった;一方,重炭素イオン濃度が高い場合には,Ca-phosphate層が生成し難く腐食が進行し亀裂が生じる.以上,浸漬と埋植の両試験の結果より,重炭素イオン濃度がMgの分解挙動に影響する重要な因子であると結論付けた.これまで長期試験での通説として埋植試験におけるMg腐食率は浸漬試験より低いとされてきたが,本研究成果である初期埋植試験におけるMg腐食率は浸漬試験より高いことが分かった.これは局所的な重炭素イオン濃度の違い,また家兎の活動に伴う大腿骨内の骨髄が流れる動的環境に影響された結果と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の各実施項目の進捗状況を以下に示す.若干の研究スケジュール変更はあるものの、研究目標に対し概ね計画通りに進んでいる.以下の実施結果から,浸漬試験と埋植試験の両試験における初期分解過程において,Mg分解挙動に影響する重要な因子(重炭酸イオン濃度,生体内環境)を明らかにすることができた.現在,これまでの研究成果を論文としてまとめており,国際学術誌に投稿する予定である. 【実施項目1】In vitro浸漬試験 Phase I:純Mg板状試験片(4N、W4×L10×t1 mm)について,DMEM+10%FBS細胞培養液に所定時間(1~24時間)浸漬する実験を実施し,外観観察と元素分析,及びpH,重量変化,Mg溶出量等の測定を実施した後,実施項目4の評価を行った.また,炭酸ガス有無による分解挙動への影響についても同様の評価を実施した. 【実施項目2】In vitro浸漬試験 Phase II:実施項目3の実験計画前倒しに伴い本実施項目を項目5と並行して実施する計画に変更したため,本年度は実施していない. 【実施項目3】In vivo埋植試験:本実施項目について実験計画の前倒しを行い,実施項目1と同様の純Mg板状試験片を家兎大腿骨端部,背面皮下にそれぞれ埋植し,所定の埋植期間(1、5、10日)後,外観観察と元素分析,及び重量変化測定を実施後,実施項目4へ提供した. 【実施項目4】表面・断面の化学組成・結合分析評価:実施項目1,3において得られた初期分解試験片について,分解生成層断面の元素マッピングを行うとともにXPSによる分解生成物等の表面及び深さ方向の元素・化学結合状態の分析を実施し,分解生成物の同定と初期分解メカニズムの解明を行った. 【実施項目5】生体内のMg分解挙動を適切に再現できるIn vitro試験法を確立:本実施項目については最終年度実施予定のため本年度実施していない.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題におけるR5年度の各実施項目の計画を以下に示す. 【実施項目1】In vitro浸漬試験 Phase I:純Mgに加え、WE43及びFAsorbMg合金について,DMEM+10%FBS細胞培養液に所定時間(1~24時間)浸漬する実験を実施し,外観観察と元素分析,及びpH,重量変化,Mg溶出量等の測定を実施する.また,各種溶液(生理食塩水,リン酸緩衝液,DMEM+10%FBS細胞培養液)の影響についても検討する. 【実施項目2】In vitro浸漬試験 Phase II:実施項目5と並行して実施する計画のため,本年度は実施しない. 【実施項目3】In vivo埋植試験:純Mg板状試験片を家兎大腿骨端部,背面皮下にそれぞれ埋植し,所定の埋植期間(30,90日)後,外観観察と元素分析,及び重量変化の測定を実施する. 【実施項目4】表面・断面の化学組成・結合分析評価:実施項目1,3において得られた分解試験片について,分解生成層断面の元素マッピングを行うとともにXPSによる分解生成物等の表面及び深さ方向の元素・化学結合状態の分析を実施し,各種溶液や試験片材質による分解生成物と分解メカニズムの影響について検討する. 【実施項目5】生体内のMg分解挙動を適切に再現できるIn vitro試験法を確立:本実施項目については最終年度実施予定のため本年度実施しない.
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