研究課題/領域番号 |
22K12968
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鈴木 崇志 立命館大学, 文学部, 准教授 (30847819)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 現象学 / 他者論 / 共同体 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、「二人称の他者」の現象学の形成史を明らかにした上で、その現代的意義を示すことである。この目的を達成するために、本研究は、三年間の研究期間において以下の三つの課題に順次取り組むという計画で進められている。 課題A:二人称の他者への「応答」概念を中心とした現象学的倫理学の形成史の解明 課題B:二人称の他者との「社会的関係」に着目した現象学的社会哲学の形成史の解明 課題C:「二人称の他者」の現象学の形成史の解明を踏まえた、その現代的意義の提示 研究の第二年度にあたる2023年度においては、課題Bへの取り組みがなされた。現象学的社会哲学の形成史を解明するうえでは、まず現象学の創始者エトムント・フッサールの社会哲学への寄与を調査する必要がある。そこで本研究は、フッサールが日本の雑誌『改造』に寄稿した一連の論文、通称『改造』論文(1923/24)に着目し、そこでの社会哲学を、とりわけ人間集団という共同体に関する理論として再構成した。さらに本研究は、フッサールの社会哲学を、同時代の日本哲学、とりわけ現象学の影響を受けつつ独自の社会哲学を構想した田辺元と和辻哲郎と比較した。これによりフッサールの社会哲学の意義が、二人称の他者とのコミュニケーション関係(社会的関係)に立脚しているという点、そして人間集団の拡大のプロセスを「文化」の形成に沿って論じているという点にあることが明らかになった。また、フッサールの社会哲学における抽象性や見かけ上の楽観主義を克服する試みとして、その後の現象学的社会哲学の見取図を描くことができた。なお、フッサールの『改造』論文に関する研究成果はベルギーのルーヴァン・カトリック大学での学会発表、および日本の研究会でのワークショップにおいて公表された。また、フッサールの社会哲学と日本哲学の比較研究の成果は、中国の広州中山大学での講演によって公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「二人称の他者」の現象学の形成史を明らかにした上で、その現代的意義を示すことを最終目的としている。この目的を達成するために、2023年度においては、現象学的社会哲学の形成史を解明するという課題が設定された。現象学の創始者であるフッサールが認識や経験の主体である「私」の意識について論じていることは広く知られている。しかし彼の現象学が「私」と「君」の関係に立脚した共同体論を展開していることは十分に知られているとは言いがたい。そこで本年度の研究は、これまであまり注目されてこなかったフッサールの社会哲学を出発点として、現象学的社会哲学の系譜を描き出すという方針で進められた。そのなかで、諸種の共同体を「人間集団」として捉えその拡大を論じるというフッサールの社会哲学の構想、およびそれが後の現象学に与えた影響を示すことができた。これにより、現象学的社会哲学の形成史を解明するという本年度の研究課題は達成されたと言ってよい。 2023年度の研究成果は、ベルギーのルーヴァン・カトリックでの国際学会での発表、日本のフッサール研究会でのワークショップ、中国の広州中山大学での講演などにより、国内外に広く発信された。これらの三つの発表は、どれも2024年度中に論文として公刊される予定である。また、国際的に著名な現象学研究者であるダン・ザハヴィとソフィー・ロイドルトの講演会の企画、および現象学の「人間」概念や「人格」概念に関する両者の論文の翻訳に関わったことは、これらの概念に依拠する本研究にとって大きな刺激となった。また、日本現象学・社会科学会において「法と権利の現象学の現在」というシンポジウムを企画したことは、フッサールの社会哲学の射程の広がりを示すことにつながった。 このように現象学的社会哲学についての多面的な考察を行なったことによって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主題である「二人称の他者」の現象学は、現象学的倫理学と現象学的社会哲学の二つの側面から捉えることができる。そして2022年度においては現象学的倫理学の形成史、2023年度においては現象学的社会哲学の形成史が解明されたことによって、「二人称の他者」の現象学の全貌が明らかになった。これらの研究成果を踏まえて、研究の最終年度に当たる2024年度においては、「二人称の他者」の現象学の現代的意義を提示することが課題となる。 この課題を達成するために、2024年度の研究においては、「二人称の他者」の現象学が他者との否定的な関係(危害、差別、敵対、無理解など)をどのように扱うことができるかが検討される。グローバル化の進展や通信手段の発達に伴い、現代において他者とのコミュニケーションの可能性はますます拡張している。それに伴い、これらの否定的な関係もまた多様な仕方で現れることになる。それに対して「二人称の他者」の現象学がとりうるアプローチを明らかにすることで、その現代的意義が示されるはずである。 なお、本年度の研究の成果は、フッサールの他者論を批判的に検討する英語および日本語での論文投稿、および他者論に重点を置いた現象学の入門書の執筆によって公表される予定である。
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