研究課題/領域番号 |
22K12969
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
平出 喜代恵 関西大学, 文学部, 准教授 (90882142)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | カント / 倫理学 / 宗教論 / 人間の尊厳 / ケア |
研究実績の概要 |
5月に「『健康』ということばの創始と普及」と題して口頭発表を行なった(東アジア文化交渉学会第14回国際学術大会、啓明大学校(韓国)およびオンライン開催、5月7-8日)。本発表では、大会の年次テーマ「パンデミックが国際交流に及ぼした影響の歴史的検討とコロナ越えへの展望を考える」および本研究の主題であるケアからの連想から、「健康」という日本語を取り上げ、その本来的な意味とその普及について報告した。 8月に共訳書『カントと人権』(モサイェビ、レザ、石田京子・舟場保之監訳、高畑菜子・田原彰太郎共訳、法政大学出版局)を刊行した。 11月に「カントをどう教えるか――諸学者向け哲学講義を考える」を主題とする共同討議の提題者として口頭発表を行なった(「専門教育としてカントをどう教えるか――『基礎づけ』演習における試み」、日本カント協会第47回大会、オンライン開催、11月12日)。本発表では、カント『道徳形而上学の基礎づけ』講読演習における私自身の授業実践を報告したうえで、カントの思想を教育するに当たってなにを教えることが求められているかを検討した。 加えて、介護・医療従事者を対象に講演を重ね(4月15日、9月12日、10月13日。いずれもオンライン開催)、出席者らと意見を交換してきた。講演では、カントの「人間の尊厳」という理念がどのようなもので、この理念を介護・医療の実践の場でいかに考えうるか、また考えるべきかを話題にした。その際、自己決定や優生思想などを取り上げた。 以上、2022年度は、具体的なケアの場面でカントの「人間の尊厳」をどのように理解し、どのような実践として示すことができるか、というテーマに取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、ケア実践における意思決定をめぐる議論の動向を整理することを目指した。 当初の研究計画では、ケアのためのガイドライン(たとえば「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」や「障害者ケアガイドライン」など)、これらに影響を与えている国際的規範や条約(「高齢者のための国連原則」や「障害者の権利に関する条約」など)、さらに『社会福祉学』(日本社会福祉学会)、『障害学研究』(障害学会)、『老年看護学』(日本老年看護学会)などに掲載される論文をサーベイすることを予定していた。 実際に、ケアのためのガイドラインやこれらに影響を与えている国際規約や条約についてはサーベイすることができ、さらにそれを土台として介護・医療従事者らと直接に意見交換する機会を多くもつことができた。 なるほど、本研究は2022年度に得られた上のような知見は限定的であるという欠点があり、今後は学術論文のサーベイに力を入れる必要がある。しかし、倫理学的問題のみならず、それに直面した介護・医療従事者の考えや実際の対応方法などを同時に考察しうる点で、豊かな示唆を得られたと評価できる。以上から「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度に得られた意思をめぐる議論の動向を倫理学的観点から検討する予定をしている。 その際に注目するのは、カントの思想内において意志(Will)と選択意思(Willkuer)とがどのように関係するか、である。カントにおいて、意志と選択意思それぞれの定義は一貫しておらず、両者の関係も明瞭とは言い難い。本研究は2023年度には、この点を「人間の尊厳」の広がりが示される『人倫の形而上学』に収載されている「徳の形而上学的定礎」における叙述に集中して考察を進めていく。そのとき、先行研究として、Hoeffe, Immanuel Kant: Metaphysische anfangsgruende der Tugendlehre(2019)や Fugate, KANT’S Lectures on Metaphysis. A Critical Guide(2018)なども参照する。 2023年度は、以上の研究手法の正当性を批判的に検討するため、国内外の研究者らと意見交換を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
社会情勢などのため、発注していた書籍の刊行が遅れたり到着が遅れたから。また、社会情勢や開催校の都合で、対面開催の予定だった学会や研究会がオンライン開催になったから。繰り越した分は、2023年度の図書購入費および出張費に加算して充てる予定である。
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