研究課題/領域番号 |
22K12969
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
平出 喜代恵 関西大学, 文学部, 准教授 (90882142)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | カント / 倫理学 / 人権 / ELSI / 人間の尊厳 |
研究実績の概要 |
5月に「貝原益軒『養生訓』にみられる中国思想からの影響とそこからの変容」と題して口頭発表を行なった(東アジア文化交渉学会第15回年次大会、於中国南開大学およびオンライン開催、2023年5月6-7日)。本発表では、大会の年次テーマおよび本研究の主題であるケアから着想を得て、養生思想の受容と変遷について報告した。 9月にワークショップ「特集『カントと人権』」のパネリストとして口頭発表を行なった(「ローマン論文の紹介とそれをめぐる問題提起」、第14回大阪哲学ゼミナール、於大阪大学、2023年9月2-3日)。このワークショップでは、2022年刊行の共訳書『カントと人権』(モサイェビ、レザ、石田京子・舟場保之監訳、高畑菜子・田原彰太郎共訳、法政大学出版局)収載の論文について議論した。 10月にシンポジウム「ELSIと倫理学」においてシンポジストとして口頭発表を行なった(「倫理学はELSIといかにかかわりうるか――カントからのアプローチ――」、関西倫理学会2023年度大会 2023年10月28-29日)。本発表では、カント『諸学部の争い』(Der Streit der Fakultaeten)を手がかりに、ELSIにおける倫理学の使命について考察した。 11月にワークショップ「カントと理性の問題―徳、尊厳、そして宗教―」で(「人間の尊厳に人間性という理念は必要か」、第212回philethセミナー、於北海道大学、2023年11月3日)、それからセミナー「カントをどのようにしてELSIにつなげるか」で(「カントとELSI」、CHAIN学生主体セミナー、於北海道大学、2023年11月4日)口頭発表を行なった。前者ではドイツ基本法中の人間の尊厳条項について、後者ではELSIについて、カントの著作に依拠してその本質とすべきことがらを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度に目指したのは、ケア実践における意思決定のありようについて倫理学的観点と法実践的観点の2つから検討することだった。以下、それぞれの観点について到達具合を、そのあとで本研究課題全体としての進捗状況を自己評価する。 《前者の観点》 カントの思想内における意志(Will)と意思(Willkuer)それぞれの内実と両者の関係をめぐって、「人間の尊厳」の広がりが示される『徳の形而上学的定礎』を中心に読解を進めた。この読解の成果は、「尊厳あるケア」の内実を検討するにあたって、ケアを受けるひとの意思を尊重することとの関係を解明することに資すると言える。したがって、この観点については「おおむね順調に進展している」と評価する。 《後者の観点》 当初の予定では、イギリスの意思決定能力法(mental capacity act)について、その制度と実務とのギャップおよび日本の福祉制度への影響を把握する予定であった。しかし実際には、日本の高齢者福祉にかかわる制度の問題点の調査を行なった。したがって、この観点については「遅れている」と評価する。 以上を総合して、本研究の進捗状況を「やや遅れている」と自己評価する。なお、以上の成果については2024年度中の公表を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度に得られた成果――「尊厳あるケア」は「何をすべきでないか」という消極的観点からも規定される必要がある――を、カント倫理学の観点から検討する。カント自身が『人倫の形而上学』に収載される『徳の形而上学的定礎』で取り組む「人間の尊厳」の決議論的問題の論点整理をつうじて、人間の尊厳の蹂躙となる倫理学的条件を抽出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は2024年度に海外出張の計画を入れていなかったが、本研究遂行において重要と思われる資料収集のために渡航する必要性がでてきた。そのための旅費を確保するため、2023年度使用分を2024年度使用分にとりおくことにした。
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