研究課題/領域番号 |
22K12972
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
名和 隆乾 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 講師 (20782741)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | インド初期仏教 / 四聖諦 / 苦諦 / 苦 |
研究実績の概要 |
本年度は学術論文「パーリ三蔵における四苦について」(『待兼山論叢』哲学篇57)を発表した。本論文では,パーリ三蔵より,苦諦の内容を「生」「老」などと具体的に挙げる全用例を抽出した上で,4版(Pali Text Society版,ビルマ版,タイ版,スリランカ版)の間で見られる異同を一覧表として示した。類似の試みは森章司『原始仏教から阿毘達磨への仏教教理の研究』(東京堂出版,1995, p. 191)も行っている。しかし同氏の研究では (1) 部派の相違が考慮されず,また (2) パーリ三蔵諸版の間に見られる異同が考慮されていなかった。拙稿ではこの2点に配慮した用例検討を行い,次の成果を得た。 すなわち拙稿では,パーリ三蔵において苦諦の内容を具体的に列挙する12例について,好ましい読みを提案した。またビルマ版,タイ版が本文を二次的に挿入している可能性のある例を指摘した。なお同2版の読みは,上座部大寺派の伝統説に一致する傾向がある。苦諦の内容を全てBe, Seの読みに従った場合, Gotama仏による初転法輪記事を有する3例で生,老,病,死が, AN 6.63 (vol. 3, pp. 176f.)を除く全例で生,老,死,悲嘆苦憂悩が,ex. 9 でのみ生,老,病,死,悲嘆苦憂悩が説かれていることになり,一貫した構成が得られる。ちなみに夙に知られる通り,多くの場合にPali Text Society版とスリランカ版, ビルマ版とタイ版の読みが一致することも,実例と共に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の拙稿で詳細に述べているが,パーリ三蔵における苦諦の内容が,各版で予想を超えて種々に異なっていたことから,当初の研究計画より進捗がやや遅れることになった。しかし本年度,拙稿にてこの状況を整理し得たことで, 計画の次の段階に移り得ることになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は2024年度が最終年度となる。当初の研究計画では,仏教興起以前とされるヴェーダ文献における生等の用例整理をも構想していたが,上記の予想外の進捗の遅れにより, 本研究課題の期間中には実施しない可能性がある。ただしジャイナ教白衣派古層聖典(seniors)における用例整理については予定通り行う。 本研究課題で作成したパーリ三蔵およびseniorsにおける用例集については,researchmapなど,オンラインでの公開を予定している。また本年度,本研究課題による成果の一部として,四苦の成立史に関わる研究発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,2023年度に研究発表を行った第74回印度学仏教学研究学会をはじめ,研究会等がオンラインで開催されたことから,当初計上していた旅費による支出が生じなかったことが大きい。 次年度使用額の使途については,本研究課題の質を高める研究図書や高性能SSDの購入に充てるほか,予定になかった研究会や学会における発表や参加に充てることを計画している。
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