研究課題/領域番号 |
22K12980
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
坪光 生雄 一橋大学, 大学院社会学研究科, 研究補助員 (10876254)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ポスト世俗 / ポストヒューマン / チャールズ・テイラー / ジュディス・バトラー / ロージ・ブライドッティ / 宗教と世俗 / 批判理論 |
研究実績の概要 |
本研究は、「ポスト世俗的(postsecular)」というキーワードによって捉えられる今日の思想潮流を「伝統の翻訳」というテーマを軸に特徴づけ、この思潮が宗教研究、ひいては広く人文社会科学の文脈においてもつ意義と内実とを明らかにすることを目的としている。近代における政治や社会文化の基調をなしている世俗主義の枠組を、批判的に問い直すポスト世俗的な現代思想の試みを受けて、「宗教」と「世俗」とを分かつ従来の概念的境界がいかに争われ、また再設定されるのか、その動態を検証する。 2022年度から引き続いてチャールズ・テイラーやジュディス・バトラーらの文献の研究を行い、これらポスト世俗的な思想に特徴的な時間性の問題に取り組んだ。とくに「反動」というキーワードとの関連で伝統の多元主義的な構成やディアスポラとしての翻訳の概念を検討することで、ポスト世俗性を単純な過去への回帰の動きではない、より複雑な時間軸によって捉える観点を得た(坪光生雄「反動としてのポスト世俗:ハーバーマス、テイラー、バトラー」)。 また、2023年度からは新たに、近年活発な議論が行われ多くの注目を集めているポストヒューマン批判理論との関連において、ポスト世俗性の広範な意味の一側面を明らかにする研究を開始した(日本宗教学会第82回学術大会個人研究発表「ポストヒューマニズムのポスト世俗性」)。ポストヒューマン批判理論は、ポスト構造主義に代表される現代思想の流れや、フェミニズム、ポストコロニアリズム、障害学、動物論等の批判的な文化批評および社会運動によって促進された、近代人間中心主義批判の動向を広く概括する思想動向である。なかでも、2023年度はとくに、「フェミニズムのポスト世俗的転回」を論じたロージ・ブライドッティのポストヒューマン論においてポスト世俗性がもつ意義の把握を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度からは新たにフェミニズムやポストヒューマン思想といった現代批判理論の動向に関する研究を開始し、ポスト世俗という本研究課題の関心領域を拡大できたことは、本研究にとって大きな進展であった。 一方で、研究成果の発表という点では、学会での研究報告と一般誌での小論の公刊だけでなく、査読付きの学術雑誌への論文投稿を予定していたが、新しい文献の調査研究と原稿執筆に難航し、実現にはいたらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、ポストヒューマン批判理論におけるポスト世俗性の問題に取り組み始めたが、そこで見出された論点や理念を、他の対抗的な思想と関連づけたり、より広範なポスト世俗思想全般の文脈に位置づけて整理するまでにはいたらなかった。2024年度以降は、いっそう広範な文献調査を行い、ポスト世俗的とされる思想全般を見通しのよい枠組のなかに位置づけ、整理することを目指す。 また、そうした研究成果は、可能な限り早期に論文として、あるいは学会での研究発表の機会に公表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会での研究発表等のために旅費を計上していたが、本年度は遠隔地における学会報告を行わなかったため、その分の未使用額が生じた。その他、パソコンやその他の電子機器等、研究遂行に必要でかつ高額な物品を新たに購入する必要が生じなかったため、物品費の支出も比較的些少にとどまった。 次年度使用額については、2024年度助成金とあわせて、文献および資料の購入(物品費)と、遠隔地における学会参加を主たる用途として使用する予定である。
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