研究課題/領域番号 |
22K12981
|
研究機関 | 共愛学園前橋国際大学 |
研究代表者 |
栗原 美紀 共愛学園前橋国際大学, 国際社会学部, 講師 (00881137)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 身体文化 / 科学 / 経験 |
研究実績の概要 |
本研究は、「身体文化」の展開と習得プロセスを明らかにすることを目的とする。具体的には、マレーシア・クアラルンプールのヨガを事例に、身体技法の実践をめぐる言語的実践を考察する。本年度は、ヨガに付随する言語的実践の中でも、特に指導実践における「科学」という言葉の用法やその意味に焦点を当て、過去に収集した資料の分析と、8月と2~3月に現地調査を実施した。 現地調査では、複数のヨガ教室での参与観察に加えて、そこで教えるヨガ指導者にインタビューを行った。調査・分析の結果、主として得られた知見は以下の2点である。1つめに、ヨガの指導実践の中で使用される「科学」という言葉は、たいていの場合近代科学との対比の中で発されるが、大きくは、1)援用(ヨガの効果を近代科学によって説明する)、2)包摂(近代科学と対比することでヨガの優位性を説明する)、3)差別化(ヨガと近代科学の違いを説明する)、という3つの意味が、状況に応じて与えられている。 また指導者たちは、常に本人の経験をもとに、ヨガの指導内容を構成する。あるヨガ指導者は30年以上の指導歴をもつが、最近大病を患った。この病いの経験が、これまでのヨガと科学・医療との関係についての認識を振り返り、理解を深めるきっかけになっていた。このように、1人の指導者の中でもヨガと科学の関係は変化するということが、2つめの知見である。これらの結果から、ヨガ実践における「科学」の語用をとらえるためには、それが使用される場の文脈と話者の文脈を併せて理解する必要があるといえる。 なお、これまでの研究成果の一部については、日本社会学会での口頭発表と、『上智大学社会学論集』の論文で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ヨガをめぐる言語的実践を、3つの場面にわけて分析していく。その中で、本年度は、指導実践の場を対象として検討する計画であり、実際に指導現場での調査を行ったり、過去に収集した指導場面に関する資料を再度考察したりした。現地調査の時間は当初の計画よりも短くなったものの、その分過去に蓄積していたデータを再考する時間を確保できたため、これまで見落としていた論点に気づくこともあり、得られた知見は少なくない。実際に分析の結果として、指導現場で発される多様な「科学」という言葉について用法の分類を行い、それを近代科学との関係から考察することができた。 また、併せて指導者へのインタビューも実施したことで、次年度以降の研究計画を遂行する方向性を検討することもできた。したがって、現時点ではおおむね順調に調査研究を遂行していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、ヨガに関する言語的実践が起こる3つの場面のうち、1)非ヨガ実践者に対してヨガの説明をする場面と、2)ヨガ実践者が自らの経験について語る場面について分析する。2023年度もクアラルンプールで現地調査を行い、聞き取り調査や参与観察を実施する予定である。その後、先行研究や文献資料と対照させながら考察を進めていく。 成果報告についても、計画書に記した国際学会での発表をはじめとして、昨年度と今年度の研究内容をあわせて行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属の変更などがあったことで、現地調査の時間が当初計画していたより短くなり、結果的に分析・考察する資料の量も想定より少なくなった。そのため、主として資料分析のために計上していた物品費の支出も計画を下回った。 ただし、今年度行った調査研究の結果から、「身体文化」の社会的展開と科学の関係の理論化に向けて必要な論点と知見は獲得できている。そこで次年度使用額は、その論点をさらに検討するために必要な資料や消耗品のための物品費と、今年度に行う現地調査のための旅費として使用する計画である。
|