研究課題/領域番号 |
22K12981
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研究機関 | 共愛学園前橋国際大学 |
研究代表者 |
栗原 美紀 共愛学園前橋国際大学, 国際社会学部, 講師 (00881137)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 身体技法 / ヨガ / 実践 / 思想 |
研究実績の概要 |
2023年度の主な研究実績としては、(1)これまでの調査結果の分析を基にした研究成果の発表と、(2)現地調査の実施があげられる。 (1)-① 2022年度までの現地調査で得られたデータの解釈をより洗練させることで、ヨガの指導空間における言語的実践の構成の意味を考察した。ヨガ指導者は、1回の指導の中に異なる性質の言語的実践を組み合わせるが、それによって、ヨガの科学性を含みながらヨガの思想や心身に対するホリスティックな考え方の伝達を行っている。また、この成果報告を2023年6月にⅩⅩ ISA World Congress of Sociologyで発表し、ディスカッションを行った結果、「身体文化」が置かれる社会的状況について、日本とマレーシアの比較による研究内容の展開可能性が見出された。 (1)-② 2024年度を中心に実施する計画であったヨガ指導者自身のヨガ経験をめぐる語りについて、論点を整理するため、過去の資料を分析した。その結果として、科学と非科学の線引きやヨガの科学性の解釈については、実践の当事者の信仰(文脈)によって差が生じる部分と宗教を問わず共通する部分があることが明らかになった。これについては、2024年1月に第32回日本マレーシア学会研究大会において報告した。 (2)-① 主に2023年度検討する計画だった論点として、ヨガ指導者たちがヨガ実践を受容しない人々に対してどのような対応をするのかについて検討した。 (2)-② 上記のとりわけ(1)-②の内容をふまえ、ヨガ経験の語りを聞き取る際に、調査協力者の中に宗教的多様性を含めるべく、現地調査を実施し、新たな調査協力者とのコンタクトをとった。また、それぞれの語りの内容を分析する前提として、調査協力者たちのヨガに対する認識や意味づけを把握するために、予備調査を行った。現地調査の実施時期は、2024年1月と、2~3月である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度の研究計画では、(1)ヨガの非実践者に対するヨガの説明方法に着目し、ヨガ実践の当事者たちが科学用語をとりこむ合理性について考察すること、(2)2024年度に予定されているヨガ実践者たちのヨガの科学性に対する見解の考察の予備調査を行うこと、であった。 (1)研究計画書作成当初、この論点については、ヨガの実践を受け入れない社会集団に対するヨガ実践者たちの説明の様式に着目し、ヨガの制度化や理論構築・伝達の担い手に聞き取り調査を行い、結果を考察する予定だったが、ここ数年で、マレーシア社会におけるヨガの位置づけが大きく変化した。その結果、研究計画書作成時に想定していた状況とは異なり、調査を計画通りに遂行することが難しくなった。一方で、2023年度の現地調査や資料収集の結果明らかになったことは、新たな現象として、これまでヨガを受容してこなかった人々をターゲットにしたヨガの宣伝広告がつくられるなど、日常生活のレベルでヨガ実践の内容の変化や、実践人口拡大の工夫が展開されている。したがって、研究計画書に記載した具体的な調査計画の通りではないものの、その目的自体はおおむね達成できている。ただし、本年度の調査だけでは十分に検討できなかった部分も残っているため、それについては来年も引き続き分析・考察を進めていく。 (2)「研究実績の概要」(2)-②で述べた通り、2024年度に検討すべき論点の整理を行った後、その論点に沿って新たな調査協力者を得ることができた。加えて、予備調査も実施済みである。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は最終年度となるため、(1)ヨガ指導者の自己物語に関する調査、(2)ヨガ指導者の自己物語の分析結果の発表、(3)「身体文化」の展開プロセスの理論化、という3点を実施する計画である。 (1)ヨガ指導者が自らのヨガ経験を語る中から、ヨガの科学性をどのように解釈し、さらに変化させていくのかを明らかにする。加えて、語りを行う当事者の信仰的なバックグラウンドの違いが、ヨガの科学性の解釈や変化のプロセスについて、どのような影響を与えるのかを検討する。2024年度も8~9月に現地調査を行い、調査協力の承諾を得ているヨガ指導者に対して聞き取り調査と参与観察を実施する。調査者に対して話す自己物語と生徒に対して話す自己物語とを対照させながら分析することで、当事者の場面ごとの語りの意味を分析していく。 (2)ヨガ指導者の自己物語に関する分析結果を中心に、これまでの研究成果をまとめ、学会報告と論文投稿を行う予定である。 (3)マレーシアのヨガ実践をめぐる複数の言語的実践の関係性を分析することで、「身体文化」が展開されていくメカニズムについて理論化する。そうすることで、「身体文化」が現代社会の人々に実践されていく意味を理解するとともに、今日実用化が進み、統合的な医療システムの中に包摂されていく「身体文化」の役割と、統合的医療システムの構築に向けての課題を検討する。
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