研究課題/領域番号 |
22K13000
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研究機関 | 京都芸術大学 |
研究代表者 |
江本 紫織 京都芸術大学, 芸術学部, 講師 (90827289)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セルフィ / 写真論 / 自撮り / ARカメラ |
研究実績の概要 |
セルフィ(自撮り)を対象に実際の経験とメディア経験の作用関係を考察するため、2023年度はセルフィにおける虚構的な「自己」像の性質について考察を進めた。虚構的な「自己」像とはフィルタの適用によって加工・修正が施された映像としての「自己」である。セルフィでは撮影時にフィルタを適用することで、素顔の自己と映像としての自己の外観の間に視覚的な差異が生じることがある。また、虚構的な「自己」はソーシャルメディアにおける共有を前提に成立するため、役割や振る舞いの点でも実際の自己とは異なる傾向を持つと考えられる。このような「自己」がどのような性質を持ち、実際の自己(撮影者/被写体) に対してどのように位置付けられるのかを明らかにするため、当該年度はフィルタの役割や性質を仮面との比較によって整理することを試みた。 具体的には仮面の性質に関する先行研究を参照し、物理的な仮面の役割とフィルタの機能の共通点と相違点を探った。その結果、物理的な仮面同様、セルフィにおけるフィルタにも保護や代理、着用者の振る舞いの変容を促すなどの役割があると考えられた。一方で、フィルタが果たす保護や代理の対象や要因、変容の方向性については、物理的な仮面とは異なる背景や構造を検討する必要があった。このようなフィルタ特有の要因や構造について検証し、これらが撮影後の共有空間に起因するものであることを確認できた。共有空間との詳細な関係については次年度に予定しているメディア(仮想的空間)の形成する「自己」に関する考察結果を踏まえ、総合的に検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、セルフィにおける虚構的な「自己」像の性質について研究を遂行することができた。特にセルフィのフィルタの役割については仮面に関する事例や先行研究における議論と照らし合わせ、次年度の考察内容の観点を精査することにつながった。一方で、予定していた研究成果の発表については2022年度の段階で発表場所および時期の見直しの必要が生じていた。ただし、これらの点については前年度中に計画を調整済みであり、研究全体としてはおおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はメディア(仮想的空間)の形成する「自己」の位置付け、つまり受容段階における「自己」の性質と成立の構造に関する考察に取り組む。これによって、初年度に考察を見送ったセルフィが引き起こす身体的な振る舞いの類型化にも着手可能になると考えられる。これらの結果を踏まえ、研究期間全体の成果を踏まえた総合的な考察を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費に関して当初の予定からいくつかの変更があっため、次年度使用額が生じることとなった。まず、対面での参加を予定し、予算に計上していた複数の学会・研究会がオンラインや近隣での開催となったため、予算に余剰が生じた。また、研究発表を予定していた国際学会の開催時期が変更になった。これによって発表先・時期の調整が必要となり、渡航に関わる費用が未使用となった。
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