研究課題/領域番号 |
22K13008
|
研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
粂 和沙 実践女子大学, 文学部, 助教 (20634900)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ジャポニスム / 来日外国人画家 / 美術市場 / 画廊 / 展覧会事業 |
研究実績の概要 |
本研究では、19世紀末に明治期の日本を訪れた英国人画家の作品制作と帰国後の活動について、英国における美術市場と展覧会事業の動向を踏まえて考察する。さらに、19世紀末の英国の画壇において、訪日画家の作品や活動がどのような役割を果たしたのか、彼らの日本訪問の意味を社会的・経済的な観点から考察を試みるものである。 明治期に訪日した英国人画家の大半は評伝や作品総目録が存在せず、基本情報さえ整理されていない状況にある。そこで初年度である2022年度は、まずは日本が開国してまもない1860年代から1900年代に訪日した画家をリストアップし、彼らの経歴と日本を主題とした作品に関する基礎資料の収集を中心に行なった。英国の図書館やアーカイヴに収蔵されている一次資料については未着手であるが、日本国内で入手可能な二次文献やデジタル・アーカイヴを活用し、日本における制作期間、帰国後に展覧会を実施した場合はその開催期間や場所、出品作品数など、明らかになった情報は一覧表に取りまとめて整理した。このうちロンドンのダウズウェル・ギャラリーと契約を結び、日本をテーマとした個展の準備のために9ヶ月間日本に滞在した画家、モーティマー・メンペスについては、訪日に至る経緯から日本での制作活動、帰国後にロンドンで開催された個展の概要、またそれに対する当時の美術批評について考察した。この成果は論文「モーティマー・メンペスのジャポニスム:第一回訪日時の作品とロンドンにおける展覧会をめぐって」にまとめ、『実践女子大学美學美術史』(第37号)において発表した。訪日画家の日本における制作活動に関する調査は、本研究課題の中核をなす部分であるため、次年度も継続して調査研究を行なう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、明治期に訪日した英国人画家について、①日本における制作活動に関する調査、②英国における作品発表および美術批評に関する調査、③ロンドンの美術市場とジャポニスムに関する調査、という三つの考察軸をもうけた上で、段階的な調査研究を行なうという研究計画を立てている。 2022年度は、このうち①日本における制作活動に関する調査を中心に実施したが、デジタル・アーカイヴの活用により、フランク・ディロンやモーティマー・メンペスといった一部の画家については、デジタル・アーカイヴの活用により、②英国における作品発表および美術批評に関する資料調査も進めることができた。英国での資料収集調査については、実践女子大学の校務や海外への渡航制限により断念せざるを得なかったが、日本国内においてできる限りの資料調査を行ない、その成果を公表することができた。したがって、概ね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
訪日画家の日本における制作活動に関する調査は、2023年度も引き続きデジタルアーカイヴや資料の遠隔複写サービス等を積極的に活用しながら、調査研究を進めていく。また、海外への渡航制限も緩和されたことから、2023年夏季に10日間程度の英国への出張を実施する予定である。ロンドンのナショナル・アート・ライブラリー、大英図書館では、画家が日本滞在中に記した日記や手紙、帰国後に行なった展覧会のカタログ、関係する画廊に関する資料などの日本で入手が困難なアーカイヴ調査を行ない、現在所在がわからない作品については、コートールド美術研究所付属ウィット・ライブラリーの資料を活用するなどして情報を集める。帰国後にこれらの資料を整理して論文にまとめ、現在取り組んでいる共著において発表する計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実践女子大学の校務及び海外渡航制限のため、予定していた海外調査が実施できなかったことによる。2023年度はロンドンでのアーカイヴ調査を行ない、旅費として執行する予定である。
|