研究課題/領域番号 |
22K13024
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研究機関 | 大阪成蹊大学 |
研究代表者 |
川島 裕子 大阪成蹊大学, 教育学部, 准教授 (60824068)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 演劇的手法 / ワークショップ / 多文化共生 / パフォーマンス / アクションリサーチ |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトの目的は、文化的差異に着目したパフォーマンス・ペダゴジーによるプログラム開発とその体験における自己変容過程の解明である。プロジェクトの1年目は、東京都日野市において多文化共生に向けたアクション・リサーチを行い、演劇ワークショップのデザインと実施ならびに参加者の体験に関する調査を実施した。 まず初めに、日野市で活動する問題意識を共有した高校教諭らと協働で、日野市役所企画経営課職員や日野市中央公民館副館長、日野市で活動するアーティストらに日野市の多文化的状況や取り組み、課題等について聞き取りをおこない、活動の方向性を共有した。そのうえで、日野市による取り組みの1つである「ひのミラ」(持続可能な日野の未来を創る高校生チーム)との連携のもと、近隣大学の学生や高校教諭らで組織した「多文化共生のための演劇ワークショップ実行委員会」を立ち上げ、プログラム内容の共同企画・運営の体制を整えた。 ワークショップ参加者の募集は、近郊の大学の国際センターや国際寮、高校、市役所、公民館、社会福祉協議会、国際交流協会等を通して行った。当日は、海外からの移住者や留学生、国際交流や多文化共生に関心のある「日本人」参加者など、日野市在住の方を中心に演劇ワークショップに関心のある参加者も含め、さまざまな文化的背景を持つ15名にご参加いただいた。年代も小学生から60・70代までと幅広かった。ワークショップは「他者を理解するってどういうこと?」をテーマに、他者と出会い、共生するということについて、演劇的手法によるさまざまなワークとふりかえりを通して協働で考えるプログラムであった。 アクション・リサーチと並行し、研究方法として活用しているアートベース・リサーチについての見識を深めるため、アートベース・リサーチ・ハンドブックの監訳および翻訳を通し、理論的背景や実践例の整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロジェクトの1年目は、当初2年目から予定していたワークショップを前倒しで実施することができた。参加者には積極的にご参加いただき、プログラムにおける体験に加え、参加者が日頃抱えている多文化共生に関わる問題や今後期待することなど、多くのご意見をいただいた。 また、日野市議会議員や日野市役所職員の方々にもご参加いただき、今後も日野市における多文化共生に関する活動を広げていくための方向性を確認した。また、本ワークショップには海外にルーツを持つ生徒が多く通う高校の教諭も参加されており、今回のプログラムを応用した教育プログラムを当該高校で実施する方向性を確認した。 以上のように1年目からワークショップを実施できたことで、フィールドへの実地調査とプログラム開発ならびに実践等を切り離さず、それらを循環させながらアクションリサーチを進めることができた。またワークショップを通し、パフォーマンス体験における変容プロセスの解明と活動モデルの確立に向けたさまざまな知見を得ることができ、順調に研究を進められている。 国内外の実践例の調査は来年度以降、教育プログラムの開発と同時に進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
パフォーマンス・ペダゴジーによる新たなプログラムを考案する際の設計指針を得るため、2年目以降は、1年目に実施予定であった文化的差異に着目したパフォーマンス・ペダゴジーによる国内外の先駆的実践に関する調査を継続的に実施する。また関連分野の文献レビューを通し、パフォーマンス・ペダゴジーの活動構造や目的、重要概念の整理をさらに進める。 アクションリサーチについては、文化的差異に着目したパフォーマンス・ペダゴジーへの視座を多角的に捉えていくため、新たなフィールドにもご参加いただき、二箇所で実施する予定である。まず、2年目も引き続き日野市にて前年の内容を踏まえた応用プログラムを実施する。また海外にルーツを持つ生徒らが多く通う定時制高校でのアクションリサーチも予定している。学校現場、特に定時制高校という新たな文脈において実践することで、その場に固有な課題へのアプローチ方法を協働で考えるとともに、同様のプログラムにおける体験や受け止めの違いについても明らかにする。 また、アクションリサーチにおいて参加者とより協働的に取り組み、同時に参加者のパフォーマンス体験を通した変容プロセスの解明を進めるうえで、アートベース・リサーチの研究方法についてもさらに探究していく。1年目はワークショップの様子をグラフィックレコーディングによりヴィジュアル化したが、他のアートベースの手法と組み合わせたり、それらをプログラム内容に重層的に組み合わせる方策を探究する。2023年11月にはアートベース・リサーチを牽引するパトリシア・レーヴィ氏によるオンライン講義を企画している。また、日本および国際学会等にて、同テーマに関する学会発表や研究報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、1年目は国内外の先駆的な実践例の調査を行いながら、アクションリサーチの実施に向けて研究協力者とプログラムデザインを行う予定であった。しかし研究協力者と打ち合わせを重ねる中で、1つのフィールドで1年目から前倒しでワークショップを実施することが可能な状況となったため、国内外の実践例の調査は来年度以降、教育プログラムの開発と同時に進めることとした。 1年目に生じた使用額の差額については、2年目以降、国内外の実践例の調査に必要な旅費に使用する予定である。
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