本研究では、アダプテーション作品の分析を通して村上春樹と日本映画の関係性の変遷を示した。村上は1970年代末に既存の日本文学とは大きく異なるタイプの作家として台頭したが、ポスト撮影所時代の日本映画の文脈において、彼の作品が自主映画出身の新しい世代の映画作家たちにとって新しさを象徴するものであったことが明らかになった。その後、2000年代以降には村上の小説のグローバルな流通に伴い、村上作品のアダプテーションがグローバル・アート・シネマの文脈へ広がっていった過程をたどり、村上の物語が「日本映画」や「日本文化」という枠にとらわれることなく、多様な社会的コンテクストに再文脈化されてきたことがわかった。
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