研究課題/領域番号 |
22K13026
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
鎌田 紗弓 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 研究員 (70865261)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 伝統芸能 / 歌舞伎音楽 / 間 / 時間的表現 / 演奏分析 |
研究実績の概要 |
1年目にあたる2022(令和4)年度は、(A) 音楽構成比較のための基礎調査を開始し、(B)実演分析の実施にむけた研究環境整備や分析手法検討を行った。 (A)については、先行研究や芸談等の記述、長唄譜や鳴物附といったパート毎の資料および参照可能な録音・映像を整理することから着手した。なお、資料収集状況や見込まれる作業量に鑑み、研究計画の手順を一部変更することとした。当初の計画では、初年度から演奏内容を対照するための比較譜を作成するとしていたが、この作業には実演分析で注目する段をある程度絞り込んだうえで、改めて着手する。 (B)については、まず必要な備品を調達して分析環境を整え、収集した既存録音からの抜粋を用いてオンセット検出の手法をテストした。さらに、映像分析のための基礎的な情報収集を進めた。とくに、本課題以前から使用していたSonicVisualiser (Cannam, Landone, and Sandler 2010)の手動アノテーションのみならず、Librosa (McFee et al. 2015)の検出精度を具体的に確認したことは、分析実施にむけて重要な一歩だったと考える。以上をふまえて、年度末には演奏者との打ち合わせを行い、収録条件、とくに舞台設定や規模について検討した。 また初年度には、研究動向把握や議論を目的とし、2つの学会に参加して口頭発表と座談会を行った。1件目では、合奏という実践を成り立たせる、演奏者の共演関係のネットワークについて論じた。また2件目、10月の国際音楽学会東アジア協議会で企画したパネルは、伝統音楽分析の諸問題についてさまざまな専門をもつ参加者と議論する機会となり、今後の研究に活かしうるフィードバックを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症対策による各機関の利用時間制限も一因し、資料の閲覧・収集・整理はやや遅れている。実演分析にむけた検討は概ね計画通りに進んだが、以上をふまえ進捗状況は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2023(令和5)年度は、音楽構成分析のための調査・情報整理を継続し、具体的にどの段に着目するか絞り込んだうえで比較譜を作成する。三味線旋律・唄の歌詞配分(フレーズ)の特徴を述べたのち、各パートの「拍」がどのような結びつきを持っているのか(相対的に見てどのように伸縮するのか)を論じる。考察にあたっては、単なる特徴の数値化にとどまらず、先行研究が成果を挙げてきた歴史的文脈のなかに位置付けることが課題となる。 また、年度内にタイミング・動作同調分析のための実演収録を行う。これにより、楽器の影響関係や「拍」自体の伸び縮みの特徴など、音楽構成には表れない実践上の「間」の特質について探究するための時系列データを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由には、新型コロナウイルス感染症拡大状況をふまえて国際学会1件をオンライン参加に変更したこと、解析ソフトウェアの一部をライセンス費不要のものへと変更したことが挙げられる。この次年度使用額分は、検討をふまえて当初の見通し以上の予算が必要と見込まれる、実演分析にかかわる物品費および人件費の不足分に充当する予定である。
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