研究実績の概要 |
2023年度は、中国語文献の日本語訳と解説の作成を行うにあたって、以下の計画を立てていた。「1,これまでに作成した目録上から主要な文献を選定して整理し、リスト化する。2,リスト化した文献のうち中国語のものを選定し日本語へと訳出する。3,訳文を中国語母語話者の協力研究者に依頼しネイティブチェックする。4,ネイティブ・チェックを踏まえ完成させた訳文に対し解説を作成する。」これらの計画のうち、すべての項目において十分な作業が進んだとは言えず、その結果として、研究誌に目録や翻訳を公にすることはかなわなかった。 ただし、その一方で、2024年度の研究計画として予定していた、文学作品についての受容復元と分析を行うことは実現している。そうした業績としては以下のものが該当する。 a,「戦後上海から「父帰る」:日本人居留民集中区における演劇活動 藤原崇雅(単独発表) 第11回東アジアと同時代日本語文学フォーラムバリ大会 2023年9月」、b,「柳沢類寿「上海らぷそでい」論:日本敗戦後上海における居留民の演劇活動 藤原崇雅(単独発表) 中国外国文学学会日本文学研究分会第十八届年会 2023年10月」 a,は戦後上海において新劇の代表作である菊池寛の演劇が上演されていたことと、その受容のあり方を検討したものである。この戯曲は、父親である登場人物が家族の元に帰ってくるという内容であるが、その内容が引揚げる居留民に重ねて上演されていたことを明らかにした。また、b,は戦後上海において当地で書かれた演劇脚本を検討したものである。この脚本が、物価上昇の激しい戦後上海において、居留民に相互扶助的な考え方を啓蒙する内容を持っていたことを明らかにした。 文献リストや訳文を研究誌に発表することはかなわなかったが、調査した資料を用いてこれらの業績を公にできてはいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、所属する大学・コースにおいて教員の欠員が生じたため、その分の校務を負担しなければいけない事態が発生した。そのため、当初予定していたエフォートを研究に割くことができなくなったのが、2023年度に実施するはずであった以下の計画(1,これまでに作成した目録上から主要な文献を選定して整理し、リスト化する。2,リスト化した文献のうち中国語のものを選定し日本語へと訳出する。3,訳文を中国語母語話者の協力研究者に依頼しネイティブチェックする。4,ネイティブ・チェックを踏まえ完成させた訳文に対し解説を作成する。)を進捗させられなかった理由である。したがって、現在までの進捗状況はやや遅れていると言える。 ただし、調査や資料の分析自体はある程度行っており、その過程で、戦後上海における居留民がどのように文学作品を受容していたかということが、部分的ではあるものの分かってきた。特に、演劇に関する資料が多く入手されたため、それらを使用して発表を行うことができた。したがって、研究は当初の計画以上に進展していると言える。 しかしながら、研究計画全体としては、資料調査をし、それを翻訳・解説・紹介したのちに、分析して業績を公にしていくというものであるため、全体として現在までの進捗状況はやや遅れていると言える。 2024年度は教員の欠員が補充され、新しく赴任した教員のサポートを行う校務は必要であるものの、概ね科研費に応募した時期に想定したエフォートの状態に戻っていると言える。想定していた状態に戻っただけであるため、2023年度の遅れを取り戻すことは難しいものの、2022年度に調査自体はある程度行っているので、2024年度に予定している、文学作品についての受容復元と分析を行うという計画は開始できる状態にある。
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