明治維新により意図的に創り出された「国民=ネイション」の概念は、内地においても教育によって広まり、日本本土の人々を帝国の臣民に規定するにとどまらず、それがさらに周縁へと拡大し、アイヌや沖縄の人々などにも波及した。西欧列強の植民地支配の構造を再現しつつ、対外戦争によって取得した植民地である台湾にも同じ論理を導入しようとしたが、「国民」の線引きの難しさが際立った。ところが1930年代以降の戦時下の文脈において、戦争目的を完遂させるために、急激に推進された皇民化政策を推し進め、本来「異民族」だった人々も臣民に規定しようとしたが、簡単には浸透しきれなかったことを文学作品への分析を通して示した。
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