研究課題/領域番号 |
22K13083
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
古谷 裕美 関東学院大学, 建築・環境学部, 講師 (80911651)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有色人種 / 身体表象 / 動物表象 / ジェンダー / セクシュアリティ / 性的逸脱性 / 人種 / 異民族 |
研究実績の概要 |
実施計画通り、2022年8月にJFK Library(ボストン)においてヘミングウェイの未発表原稿調査を実施した。調査対象としては、長編 True at First Light(1999), Under Kilimanjaro (2005), The Garden of Eden (1986)と短編4編を中心に、出版原稿から排除された手書き文章や、編纂された箇所の調査を実施した。原稿調査によって、有色女性表象と動物との交差性や、動物との一体視に関する描写が、編纂の過程でかなり削除されていたことが新たに判明した。有色女性と動物の交差性や混淆性は物語を読み解く主要な隠喩であり、脱人間中心主義的な要素が付加されることで、性的逸脱性を示す「官能性」や「再生」といった記号性が女性の身体に書き込まれている。
ヘミングウェイ・テクストの動物表象に関して、自然と近しい存在としての野生動物と、相反する存在として檻やケージの中で人間に飼育される愛玩動物では、動物と関連して描き出される登場人物の表象にもたらす影響に相違が見られることが新たに判明した。野生動物とその否定性としての檻の中の愛玩動物という研究視点を導入し、鳥かごのカナリアが扱われる短編「贈り物のカナリア」を調査対象として追加した。2022年12月に、原稿分析の結果に基づいて、鳥かごのカナリアが隠喩として内包する閉塞性、抑圧、行き詰まりという観点から物語を再読し、日本ヘミングウェイ協会全国大会(於:九州大学西新プラザ)で研究発表を行った。プロジェクト1年目の研究を受けて、2年目は檻で飼育される愛玩動物を比較対象として、野生動物との混淆性が有色女性表象にもたらす「再生」や「官能性」などの動物表象の「生」にまつわる側面について考察を展開していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プロジェクト1年目(2022年度)には、8月にボストンのJFK Library で原稿調査を実施した。計画は順調に進展しており、現地では、キュレーターや他の研究者から貴重なアドバイスを得ることができ、調査内容を効率よくパソコン入力することが可能となった。当初予定していた調査対象の大部分に関する情報収集が可能となった。膨大な量の調査内容は、質的分析ソフトMAXQDAを用いて、女性の身体、人種性、動物との交差性、官能性、堕落、再生などのキーワードを用いて、コーディング/分析を進めている。
調査過程において、新たな分析上の発見があった事柄、特に動物表象や、異民族性に関する男女の身体表象の相違という観点については、調査対象の幅を広げるなどの対応を取った。当初予定していた調査対象に加えて“Canary for One” (1927) と“God Rest You Merry, Gentlemen" (1933) の調査を追加した。また、『エデンの園』The Garden of Eden (1986) もおいても、動物と女性表象についての重要な描写が見られることから調査対象に追加した。
2022年度に調査・分析した内容の一部は、2022年12月に日本ヘミングウェイ協会で研究発表を行い、発表後は論文として取りまとめ、2023年2月に同学会の学会誌『ヘミングウェイ研究』に論文投稿した。(査読済み、掲載待ち)2023年1月には、ボストンで開催される、American Literature Association (ALA)でのセッションに応募し、レジュメの査読審査を経て、発表が受理された。現在、2023年5月末のALAでのセッションに向けて準備を進めている。概して、プロジェクト1年目の情報収集がスムーズであったことから、その後の分析、研究発表、論文執筆が順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、前年度の原稿調査で収集したデータを引き続き分析し、人種性や異民族性、異文化性が示唆される身体についての研究を進める。人種性や異文化性が、男性の身体と関連付けられる際には「死」や「行き詰まり」、「性的倒錯性」が示される場合があるが、有色女性の場合には、「官能性」や「堕落」、「再生」といった男性とは異なるコノテーションを内包すると考えられる。人種性や異民族性などに関して、男女の身体表象に見られる相違、共通性、独自性を比較/考察しながら、女性の身体の描かれ方を浮き彫りにしていく。2023年の前半には、5月末にボストン開催のAmerican Literature Association (ALA)において、"Castration, Homosexual Desire, and Orientalism in 'God Rest You Merry, Gentlemen" という発表タイトルでセッションに参加予定である。なお、セッションでは、アメリカ人文学研究者他3名と登壇し、ジェンダー研究の観点からディスカッションを行う予定である。
プロジェクト1年目の研究成果としての論文が、2023年6月に日本ヘミングウェイ協会の学会誌『ヘミングウェイ研究』で掲載される予定である。投稿論文タイトルは「『贈り物のカナリア』の多層的な隠喩を読み解く-男女の別離・抑圧・動物表象」である。2023年度の後半~2024年度の前半は、有色女性の身体表象分析に関するこれまでの原稿調査の分析のまとめを行い、研究発表に向けて準備を進めていく。2024年度6月(もしくは7月)にスペインで開催されるInternational Hemingway Conference、および 2024年度10月開催の日本アメリカ文学会での研究発表を予定しており、研究発表後は、国内外の学会誌へ論文投稿を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、4976円である。金額が少額であるために、次年度の助成金と併せて使用することにした。Ernest Hemingway の研究書の購入に使用する予定である。
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