研究課題/領域番号 |
22K13093
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
谷本 道昭 明治大学, 経営学部, 専任准教授 (50806974)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | バルザック / 『谷間の百合』 / 「『谷間の百合』序文」 / 「『谷間の百合』が引き起こした訴訟の記録」 |
研究実績の概要 |
研究の初年度にあたる2022年度は、「研究実施計画」に記したように、資料収集と資料の読み込みを中心に行った。資料収集としては、研究開始当初はバルザックの著作と研究文献を主な対象としていたが、資料の読み込みを進めるなかで、研究題目としている「バルザック『谷間の百合』と1830年代フランスの出版文化」、特に後半部分の「1830年代フランスの出版文化」を文学との関係において捉えるためには、19世紀フランスの出版文化のなかでバルザックと近い位置にいたその他の作家(サンド、ネルヴァルなど)の著作と研究文献にも目を向ける必要があることが判明したため、資料収集の範囲を広げることとなった。また、19世紀フランスの出版文化を歴史的な視点から理解するために、フランスおよびヨーロッパの歴史、文化史に関する著作の収集を行なった。さらに、本研究の主対象としている「バルザック『谷間の百合』」の作品理解のためには、創作のコンセプトから主人公の人物設定、そして物語の構成までを基礎づけている「花」のモチーフ・詩学を理解することが不可欠であることが判明したため、聖書からフランス近現代文学まで、「花と文学」に関する資料収集を開始することになった。 上記の活動と並行して、「バルザック『谷間の百合』」と「1830年代フランスの出版文化」を直接的に結びつけている重要な文献として、バルザックが『谷間の百合』の各版に付した「序文」に相当するテクストの翻訳を行い、科学研究費研究成果として公表した(「バルザック『谷間の百合』「序文」(I)(II)(III)」、『明治大学教養論集』564、567、569号)。研究成果の公表にあたっては、これまで未邦訳であった「『谷間の百合』が引き起こした訴訟の記録」の全文を訳出しただけでなく、解題や詳細な注を付すことで、本研究の意義や重要性がわかりやすく伝わるよう努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記したように、2022年度までに実施した研究については、「研究実施計画」に沿う形で遂行することができた。資料収集の範囲が広がったことについては、「研究実施計画」の段階で、「今後、資料については、徐々に収集の範囲を拡げ、国内外で継続的に調査、収集を行なっていく予定である」としていたことが具体化しているといえる。また、バルザック『谷間の百合』を「花と文学」という主題のなかで捉える試みを開始したことについても、「研究実施計画」の作成段階では「研究実現のために問題設定をさらに具体化している段階」としていたことが、実際に具体化し、研究の方向性が明確化した結果であるといえる。資料収集については、日本とフランスの図書館や書店を通じて行なうことができたため、特にフランスにおいて、最新の批評校訂版や研究文献をはじめ、日本では入手することが困難な資料を入手することができたのは大きな収穫であった。 研究成果として、これまで未邦訳であった「『谷間の百合』が引き起こした訴訟の記録」を中心に、雑誌掲載されたプレ・オリジナル版の「序文」、ヴェルデ書店から刊行された初版の「序文」、シャルパンチエ書店から刊行された第二版の「緒言」まで、バルザックが『谷間の百合』に付した「序文」に相当するテクストをすべて翻訳し、解題や注とともに「「バルザック『谷間の百合』「序文」」のタイトルで所属する大学が発行する論集に発表することができたことは、本研究が順調に進捗していることの証左となっているといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、基本的には、「研究実施計画」に記した年次計画に沿って研究を進めるということになる。年次計画では、4年度に渡る研究実施期間のうち、初年度と次年度は主として資料収集と資料の読み込みの期間とし、その期間中に、可能であれば研究成果の公表を行うという目標を立てている。「現在までの進捗状況」に記したように、初年度に、資料収集と資料の読み込みと並行して、研究成果を公表することができたので、次年度においても、研究成果の公表までを行うことができるよう、継続して研究の推進に努めていきたい。 研究の内容としては、「研究実施計画」に記したもののうち、「作品を同時代的なコンテクストに位置づける研究」については、初年度の研究において進めることができたので、次年度には、初年度の研究成果を踏まえながら「作品の形式と内容に関する研究」を進めていきたいと考えている。研究期間の後半は、それまでの研究成果を踏まえた上で、総合的な研究として「作品のプログラムそのものに関する研究」に取り組んでいきたい。 研究を遂行する上での課題としては、「研究実施計画」の執筆、提出後に、為替の大幅な変動や世界的な物価高が起きたということがあり、本研究の支出の多くを占める「物品費」「旅費」において、当初の想定以上の費用がかかるという事態が起きている。今後もこうした事態が継続することが見込まれるため、本研究を推進していくにあたっては、可能な限り「研究実施計画」に沿った形で研究を実施していくよう十分に心がけていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度末の3月に行なった研究出張の経費精算が翌年度2023年度にまわったため。
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