研究課題/領域番号 |
22K13105
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研究機関 | 二松學舍大學 |
研究代表者 |
戸内 俊介 二松學舍大學, 文学部, 教授 (70713048)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 上古中国語 / 方言 / 甲骨文 / 金文 / 否定詞 / 量詞 / 判断文 |
研究実績の概要 |
2022度は西周金文が反映する言語に見える方言的要素について検証すべく、西周金文の分析を中心に行った。目下のところ西周金文はその内容によって、王室や諸侯の儀式を中心に叙述したものと、訴訟の経過など儀式以外のものに分けることができ、その上で①前者は王室メンバーの対話や、王室の儀式、王室の儀式を模倣した諸侯の儀式で用いられる言語を反映し、②後者は非王室メンバーが用いる口語性の強い言語を反映していると研究代表者は考えている。この仮説は以下の点から確認できる。(1)①では否定詞「弗」はしばしば目的語をともなう動詞を否定する。これは殷以来の古めかしい用法である。一方②ではしばしば目的語をともなわない動詞を否定する。それは春秋時代以降につながる新興の文法現象である。(2)否定詞「勿」も①ではしばしば目的語をともなう動詞を否定し、その機能は殷代に近く、②ではしばしば目的語をともなわない動詞を否定し、その機能は春秋時代以降に近い。(3)判断文を表すとき、①ではコピュラ「唯/惟」が用いられ、②では名詞述語文が用いられる。前者は殷代に、後者は春秋時代以降によく見られる形式である。このような、同時代資料内における言語的、文法的な違いを、本研究では西周における社会的方言の違いと見なす。 このほか、甲骨文の文法についても研究を進めた。具体的には、甲骨文に見える数量表現についてである。かねてより、殷代に量詞(類別詞)があったかどうかについては議論があったが、研究代表者は甲骨文に見える数量表現の用例を網羅的に調査し、従来、量詞と見做されてきた語は原則的にみな動詞であると結論づけた。ただし「羌三十人」や「人十又五人」といった数詞に後続する「人」のみ、名詞という範疇を脱し、量詞に向かいつつあると解釈した。 また、甲骨文や西周金文を読み解くための基礎的作業の一環として、古文字そのものに対する研究も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
西周金文に見える「弗」「勿」及び判断文について、その文法的現れの違いから、金文に見える言語を①王室の儀式性言語と、②非王室の口語という2種類に分け、これらを西周における社会的方言の違いと見なしたことについては、「見於西周金文的方言」という題目の元、国際シンポジウム「Workshop: Chinese Language and its surroundings」(於京都大学、2022年12月17日)で研究報告を行った。 また、殷代の数量表現に関する研究成果は、国際学会であるICSTLL-55(於京都大学、2022年9月15日ー18日)において、「殷商漢語数量表達研究―兼論漢語個体量詞的来源」のテーマのもと、口頭発表を行った。 ともに本課題の柱となる研究であり、それらを国際シンポジウム、国際学会で報告できたことは、本課題が順調に遂行していることを示している。 このほか、漢字や古文字そのものに対する研究の成果として、漢字能力検定協会のウェブサイト『漢字カフェ』(https://www.kanjicafe.jp)において、2022年9月以降、定期的に文章を発表している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は学会発表に終始し、論文執筆に至らなかった。翌年度以降は、論文執筆に向けての準備を行う。 まず西周金文に見える方言に関する研究については、引き続き西周金文の分析を行いつつ、方言が反映していると思われる言語的、文法的現象を見つけ出し、目下想定している仮説を補強する。新たな知見が得られた、研究発表の準備を行い、さらに論文執筆へとつなげる。 殷代の数量表現研究については、これを論文としてまとめる。同時に、西周金文に見える数量表現の検討にも着手し、殷代甲骨文に見える数量表現との比較研究を行う。 このほか、甲骨文や西周金文を読み解くための基礎的作業の一環として、漢字や古文字に対する研究も継続的に遂行し、文法研究への足掛かりとしつつ、成果をWebサイト上で公開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は新型コロナの収束がなお不透明で、国内外での研究発表や調査を行えず、出張旅費を使うことがあまりできなかった。翌年度は、研究発表や調査のために出張に行く予定である。また、引き続き関連資料や物品を収集、購入し、研究環境の整備に努める。
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