研究課題/領域番号 |
22K13113
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
權 恩熙 小樽商科大学, 言語センター, 准教授 (80931576)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 在日朝鮮語 / 民族継承語 / 民族語教育 / 朝鮮学校 / 在日コリアン / ディアスポラ方言 / 書き言葉 |
研究実績の概要 |
本研究では、朝鮮学校コミュニティにおいて共有・継承されてきている朝鮮語について、書き言葉を中心に実証的に究明することを目的とする。また、先行研究で一部確認できた「文語体の口語化現象」と「日本語文におけるカタカナ朝鮮語の汎用」の実態についても綿密に検討を行い、改めて話し言葉の特徴を捉えなおすことも試みようとしている。 まずは朝鮮学校コミュニティの言語について考察を深めるべく、国会図書館や大阪府立中央図書館の「塚本文庫」、朝鮮専門の古本屋、韓国の書店などを訪問し、1世の最大出身地である「慶尚道」と「済州道」地域の方言に関する研究文献、ならびに朝鮮学校の教科書の基準となっているDPRKの朝鮮語に関する研究文献、1950年代から現在に至るまでの朝鮮学校の教科書と参考書などを調査した。 また朝鮮学校コミュニティ内で流通されている印刷物について調べた結果、朝鮮新報社発行の『朝鮮新報』や『月刊イオ』、朝鮮青年社発行の『月刊セセデ』の他に、総聯の各地域支部の地域情報誌と諸協会の会報が存在することを確認した。例えば愛知県本部傘下の場合、地域情報誌として名港支部「名港トンネ」、東春支部「東春ウリトンネ」、名駅名西支部「アンニョンネット」、南支部「トンネット」、尾張支部「尾張通信」などが不定期的に発刊されており、他に女性同盟愛知県本部「活動紹介誌」、留学同東海「プリ」、愛知県青商会「フルスロットル愛知」、日朝芸術文化交流協会「会報」、在日本朝鮮人愛知県体育協会「AK Athlete」などが確認される。ただ、不特定多数を対象とする公式的かつ保守的なメディアで使用が確認されてこそ、その特徴が「在日朝鮮語」を特徴づける代表的な言語事象である可能性が高いため、次年度は最も広範囲に流通されている『朝鮮新報』と『月刊イオ』、『月刊セセデ』に絞って分析考察を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の所属先が愛知から北海道の大学に変更されたことにより、文献調査のための移動と時間が予定したより大幅に増加しただけではなく、北海道地域の在日コリアンのコミュニティ内部の方々との新たに信頼関係の構築に努める時間が必要になった。 また、所属変更に伴う大幅な業務内容・形態の変更により、研究活動が大いに制約された。そのため、本年度は文献調査を中心に研究活動を行い、多様な言語資料と参考文献を入念に調査・検討し、収集を行った。予定してたの計画の一部(データのデジタル化と整理、中間成果の発表)は次年度に後ろ倒しで行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最も広範囲に流通されている『朝鮮新報』と『月刊イオ』、『月刊セセデ』の三つに絞って、言語データをデジタル化し、EXCELなどで分析のために再整理作業を行う予定である。その際にOCR処理を行うことを検討していて、方法を模索中である。その作業と同時並行に、まずは『朝鮮新報』の直近10年分の日本語記事で発見されるカタカナ朝鮮語の特徴についての考察をまとめ、7月末に開催予定の東北アジア文化学会(韓国)の国際学術大会で発表する計画である。 また、1973年から『朝鮮新報』で約15年間にわたって連載され、在日コリアンの人たちに親しまれたという4コマ漫画「イプニ」(作者・日本生まれの2世である全哲氏)に登場する人物のセリフ(準口語)に焦点を当て、その特徴について後半期から調査を始める計画である。本研究は3世以降の世代の言語使用に関心を持つが、現在の4~5世の言語使用上の特徴はいつから始まったのかを確認するためには2~3世の言語使用についても知っておく必要があるためである。 また、より正確な分析のためには、言語データとして活用予定の雑誌と新聞の発行趣旨および対象としている読者層(年齢、世代、所属集団など)、校正・校閲のルール、編集者と記者・ライターの年齢層や言語的背景(朝鮮学校出身か否かなど)についての情報が必要である。これに関する調査の準備、例えばインタビューの質問項目の作成や韓国統一部への「対北韓住民接触計画書」「研究計画書」「北韓住民接触計画報告書」の提出などを、後半期から始めていく予定である。
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