研究課題/領域番号 |
22K13114
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大竹 昌巳 京都大学, 文学研究科, 講師 (60884369)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 契丹語 / 契丹小字 / 墓誌 / 遼代漢語 / 音調 / 『遼史』 / 版本 / 書誌学 |
研究実績の概要 |
本年度は、初年度に引き続き契丹文字墓誌の訳註作成を進め、その成果の一部を口頭発表するとともに、関連する研究成果を論文として発表した。 本年度に主対象としたのは『耶律仁先墓誌銘』である。耶律仁先は遼代中後期の重臣で、1983年にその家族墓から漢文と契丹文を刻した墓誌銘が出土している。その契丹文面は現存する契丹文墓誌として最長を誇り、質量ともに遼朝史・ユーラシア東方史研究および契丹語・モンゴル諸語研究にとってきわめて重要な価値を有する一級の資料である。この墓誌銘をめぐってはすでに多くの研究が存在するものの、その読解は初歩的な段階にとどまっている。本研究においては、墓誌銘を冒頭から読み進め、原石の風化による劣損箇所の復元を行ないつつテキストを翻刻し、筆者のこれまでの研究成果に基づいてローマ字転写と翻訳を与えた。墓誌銘初頭の導入部分について歴史学的・言語学的観点から語註を作成し、契丹文字研究会にて口頭発表を行なって、関連研究者たちと意見交換を行なった。 本研究課題に関連する成果として、契丹文字墓誌および遼代漢文墓誌中の漢語・契丹語対音資料を利用した、遼代漢語の声調体系の推定およびそれに基づく契丹語の語音調の再構を行なった論文を執筆し、『言語研究』に掲載された。本論文は、ある程度の出土量が揃った契丹文墓誌中の対音資料を定量的に分析することで韻律情報を読み解くことができることを明らかにし、契丹文墓誌が言語資料として有用なことを実証的に示した。 また、昨年度から引き続いて明洪武刊本『遼史』の書誌学的研究を進め、口頭発表を行なうとともに、その成果の一部を紀要論文として発表した。漢文史料『遼史』は契丹語文献を読解する上で常に参照すべき重要文献であるが、その内容にも関わる版本上の差異が洪武刊諸本内部にも存在し、それが看過されてきたことを指摘した点が特筆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究時間の確保が難しく、墓誌訳註の作成作業に想定より遅れが生じている。また、本研究課題に関わる多様な研究成果を収めることができた前年度をふまえ、本年度はその成果を論文としてまとめて学術誌に投稿する作業を進めたが、複数の論文執筆が重なった結果、当該年度中には完成に至らなかったものが数多く生じてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは本年度投稿に至らなかった論文の完成を目指し、成果刊行に注力する。『耶律仁先墓誌』は大部の資料であるため全体の訳註作成は根気強く継続していく必要があるが、並行して他の契丹文墓誌の訳註も作成し、まとまった成果の刊行を目指したい。
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