研究課題/領域番号 |
22K13118
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
濱田 武志 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60772431)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 漢語系諸語 / 系統論 / 中国音韻学 / 西夏語音韻学 / 対音資料 / 近世音 |
研究実績の概要 |
本研究は、漢語系諸語(中国語の諸方言)の現生北方変種の系統が他から分かれたと推定される年代に近い宋代の北方漢語、とりわけ、西夏語・西夏文字と漢語・漢字の対音資料などから帰納される変種を「北方基部変種」と位置付ける。北方基部変種の音韻体系を正確に復元することにより、北方変種系統の成立の絶対年代や過程を解明することを本研究は目指している。 本年度は、西夏語・西夏文字の具体的言語音を復元する直接的根拠である、西夏時代当時の字音に関する学問(通称「西夏語音韻学」)の学理を主たる考察対象として研究活動を行った。北方基部変種の音韻体系の復元と西夏語・西夏文字の音韻体系・字音の復元は往々にして相互参照的な側面を有するため、西夏文字の字音推定の直接的かつ内的な資料(西夏語音韻学による字音研究の成果を記述した出土資料)の分析方法自体について、再考を行った。その結果、西夏語音韻学の基礎資料の一つ『文海』の写本(所謂乙種本)が、刊本(所謂甲種本)から複数人の手を経て書き写されたものであるという新たな仮説を得るに至った。また、『文海』の体裁自体は中原王朝の音韻学の韻書(発音字典)を強く意識して作られているものの、その字音の整理方法には悉曇学の知見を直接応用した痕跡が見受けられ、かかる西夏独自の工夫が行われた背景として、漢語と西夏語との間に音節構造の違いが存在している可能性があることを指摘した。 上記の研究成果は2件の学会発表にて公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『文海』の字音表現の方法論に関する考察を通じて、西夏文字の音価推定について新たな仮説を構築することができた。宋代の漢語と西夏語を相互参照的に復元せざるを得ない現状において、西夏語音韻学への再考という異なる視点から当時の言語音に迫る足掛かりを得たことは、一つの進展である。
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今後の研究の推進方策 |
西夏語音韻学の方法論に関する考察を継続する一方で、西夏文字の字音復元に関する最近の新説(Gong 2021など)が北方基部変種の音韻体系の復元に対して与える影響などを検討しつつ、北方基部変種の改新的特徴や保守的特徴を解明することを目指す。
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