研究課題/領域番号 |
22K13157
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研究機関 | 至誠館大学 |
研究代表者 |
岡田 美穂 至誠館大学, 現代社会学部, 准教授(移行) (30828075)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日本語学習者の格助詞の習得 / 場所を表す格助詞デとニ / ベトナム語話者 |
研究実績の概要 |
本研究は日本語学習者の格助詞「で」の習得における発達段階を解明しようとするものである。母語の影響を考慮した研究はまだ少ないため,習得過程においてどの部分が普遍的でありどの部分が母語の影響を受ける部分なのかを明らかにすることが重要な研究課題となる。 中国語話者は動作場所「で」の習得上のある段階で「で」の箇所に誤用した「に」を(1)「あの喫茶店にコーヒーを飲む」では「移動先」,(2)「食堂にうどんを食べた」では「存在場所」と明確に使い分けている(岡田・林田2016)。本研究は上記の使い分けが見られるのが「で」の発達の1段階にあたるのではないかと仮定し,ベトナム語話者にも共通するものであるかどうかを明らかにすることを目的とした。 調査はホーチミン市内の大学に協力を得て実施した。調査に用いた格助詞テスト等は上記の中国語話者と同様である。格助詞選択式テストは「あの食堂( )食事する」の( )に「に・で・を・から」の中から助詞を選ぶもので,「に」「で」「を」「から」のそれぞれを正答とする各12問計48問から成る。回帰分析の結果,日本語能力がN2レベルの30人については上記の中国語話者と同様の結果が得られなかった。すなわち,(1)の「で」→「に」の誤用は存在場所「に」との間には何ら関係が見られなかったものの,移動先「に」との間にも関係が見られなかった。移動先「に」の正答率が46.2%であり73.5%であった上記の中国語話者に比べて低いことや母語,学習環境の違いに原因があると考えられる。N3レベル70人については(1)の「で」→「に」の誤用と存在場所「に」との間に有意な負の関係が見られた。存在場所「に」を正しく用いることで(1)の誤用が減ることを意味する。その他の調査結果は分析中である。調査結果を総合的に考察し,母語に関わらず共通した誤りの部分と母語の影響を受ける部分を示す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書では,新型コロナウイルスの拡大予防を考慮し,調査は国内の日本語教育機関を中心に数回に分けて実施する予定とした。令和4年9月末に,海外からの入国時における条件等が緩和されたため,ベトナムのホーチミン市内の大学を訪問し,ベトナム語話者に対する調査を1度に実施することができた。そして,調査結果の一部を分析し,得られた成果を学会で発表することもできた。これらのことから研究はおおむね順調に進んでいると言える。 今後の韓国語話者に対する調査は,研究計画調書時に予定していた日本語教育機関から調査協力が不可能となったという連絡が入った。そのため,調査実施対象機関を変更し,韓国の大学に協力を得ることにしたところである。
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今後の研究の推進方策 |
韓国語話者に対する調査を実施する予定である。新型コロナウイルスは感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類へ移行したものの,まだ感染者数が報告されている。大学によっては引き続き感染予防対策を取っているところもある。したがって調査は先方と協議し,実施時期及び実施方法を決定することになる。 「研究実績の概要」でも述べたが,ベトナム語話者に対する調査データを回帰分析した結果,中国語話者(岡田・林田2016)と同様の結果が得られなかった。今後実施予定である韓国語話者に対する調査においても,ベトナム語話者と同じ結果となる可能性もある。 本研究課題のパイロット調査として位置付けられる岡田・李(2021)では「韓国語話者も(1)と(2)の「で」→「に」の誤用を使い分けるか」を課題として行った結果,韓国語話者も意味的には中国語話者と同様の使い分けがあることが示唆された(『東アジア日本語・日本文化研究』29)。そのため,これから実施予定の韓国語話者に対する使い分けを調べる格助詞テストでは,岡田・李(2021)の韓国語話者に対し行った調査票の問題文を加えることとする。
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