研究課題/領域番号 |
22K13231
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
安酸 香織 日本大学, 国際関係学部, 助教 (00845026)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ライン上流域 / アルザス / オーバーライン / 史学史的考察 |
研究実績の概要 |
令和4年度の研究成果は、アルザスとライン上流域の関係について史学史的考察をしたこと、またライン川の航行特権と自由航行をめぐる問題に関する先行研究と刊行史料を部分的に読み解いたことである。 まず史学史的考察という点では、伝統的なアルザス地域史研究、オーバーラインを対象とするドイツの地域史研究、そしてライン上流域という新たな視角、これら三者の関係について以下のことを明らかにした。アルザスの通史は18世紀前半にフランスにて、オーバーライン史研究は19世紀半ばにドイツにて登場した。その後フランスではライン左岸のアルザス史研究が進んだ一方、ドイツでは20世紀前半にアルザスを含めライン両岸に広がるオーバーラインの一体性の証明が試みられ、それがナチス政権により利用された。そのため戦後はオーバーラインという用語の使用は避けられるか、意識的にアルザスを除外する形で用いられるようになった。ただし近年の中世史研究では、アルザス史とオーバーライン史の分断を乗り越える試みが行われており、ライン上流域のまとまりと両岸の相互関係が明らかにされつつある。本研究課題は、近世のライン上流域の権力秩序を具体的に明らかにすることであるが、以上の史学史的考察を通して本研究の位置づけをより明確にすることができたといえる。その考察結果は、査読論文として学術雑誌に掲載された(安酸香織「アルザスとライン上流域をめぐる史学史的考察」『日仏歴史学会会報』第37号、2022年、17-30頁)。 続いてライン川の航行特権と自由航行をめぐる問題については、先行研究を整理したうえで、ウェストファリア条約史料集を用いた分析に着手した。ただし後述のように、何らかの分析結果を提示するところまでは進んでおらず、この点は来年度の課題として残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、ライン川の航行特権と自由航行をめぐる問題について、刊行史料を用いた分析を行ったうえで、令和5年3月に在外実地研究を行う予定であった。 しかし研究の過程で、具体的な分析を行う前に、地域史の史学史的考察が必要であることが明らかになった。そのため令和4年度は当該作業に取り組み、上記の研究成果が得られた。一方、計画の変更に伴い刊行史料を用いた分析の進捗状況は予定の4分の1程度にとどまり、在外実地研究も令和5年度に延期せざるを得なくなった。 本研究課題以外の研究活動、具体的には令和5年度に出版予定の図書の執筆ならびに洋書の共同翻訳に想定以上の時間がかかったことも、本研究がやや遅れている理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
まず「ライン川の航行特権と自由航行をめぐる問題」について、前年度に終えられなかった刊行史料を用いた分析と在外実地研究を、令和5年度前半に実施する。在外実地研究の時期は令和5年8月の一か月間を予定しており、ストラスブールのバ=ラン県文書館をはじめ、フランス、ドイツ、オーストリアの各文書館にて史料を調査・収集する。そこで入手した一次史料を用いた分析を、令和5年度後半と令和6年度春季の約9か月間で行う。 それに伴い、令和6年度前半に予定していた「周辺諸権力の介入による紛争と解決」についての刊行史料を用いた分析は、同年度夏季の3か月間に短縮する。その際に対象から除外した刊行史料については、令和6年度後半以降に適宜用いることとする。 令和6年度後半以降は、当初の研究実施計画通りに進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究の遅れにより、当初の予定より実際に購入した図書が少なくなったこと、また令和5年3月に予定していた在外実地研究を実施できなかったことにある。 令和5年度には、物品費25万、旅費60万、その他約3万とし、以下の計画で使用する。 まず物品費では、ライン上流域関連図書(14万)、史料撮影用のデジタルカメラ(8万)、インク・印刷用紙等(3万)を購入する。次に旅費では、フランス・ドイツ・オーストリアでの史料調査のための海外出張(55万)、ならびに西洋史学会大会参加のための国内出張(5万)を実施する。その他の費用としては、スキャニング費(2万)と複写費(1万)を予定している。
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