研究課題/領域番号 |
22K13268
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
平田 晶子 東洋大学, アジア文化研究所, 客員研究員 (70769372)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 技術的実践 / 心の契約 / 複写式契約 / 芸能経営 / 民俗舞踊 / 創作活動 |
研究実績の概要 |
本研究は、東南アジア大陸部のタイとラオスの二国間における著作権法・知的財産権法の成立過程から施行過程に至るまでの法整備と人間の感情の関係という観点から、舞踊と地域芸能の創作活動と芸能経営を通じて形成される担い手たちの認識枠組みおよびその変化、さらに感情の実態を明らかにすることを目的としている。 まず初年度は、バンコクから経済的・心理的に隔絶されていると云われる東北地方の芸能集団の芸能経営と芸能者が抱えるリスク管理の問題に注目し、2000年代以降に採用された複写式契約書による芸能の契約という技術的実践の諸相をモノグラフとしてまとめ、60年という伝統ある国内学術雑誌『物質文化』特集102号に掲載した。アウトリーチ活動として日本文化人類学会第56回研究大会(2022年6月5日)にて口頭発表(題目「東北タイ芸能集団の書面契約の採用―不確かな未来に対するデリバティブな約束をめぐる法的システムの構築」)を行った。 他方で、アフター・コロナ禍でもあるタイにて夏季休暇を使って現地調査を実施した。具体的にはチェンマイ、ナコンパトムにて調査を実施し、著作権法・知的財産権法が活用される中心からは一見程遠く無関係だと捉えられる公的・民間教育機関で活動する芸術家・舞踊家を訪問し、彼らの抱く民俗舞踊の著作権・知的財産権に対する認識や創作活動における積極的な活用について文献調査および聞き取り調査を行った。その結果、著作権法を意識した学術的権威と結びついた民俗舞踊の創作活動の事例を数件例証することができるだけの一次資料を収集することができ、一定の研究成果を挙げることができていると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は夏季休暇を利用し、タイで約2週間のフィールドワークを実施した。コロナ禍中の渡航でもあったため、健康・安全リスク管理を十分に行い、チェンマイとナコンパトムの教育機関にてタイ舞踊と著作権法・知的財産権法に関する認識のあり方、活用のされ方に関するフィールド調査をまず実施した。タイ舞踊の創造活動については教育的活動と商業的活動とに分岐しており、教員および学習者の担い手自身も十分にそのことを熟知している。 一方で、最高学府の学術機関における民俗舞踊の創作活動については、創作舞踊の登録を行うことで学術的な権威との結びつきを強め、商業ベースとは異なる形で展開していることも明らかになっている。創作者自身による創作活動をめぐる著作権法・知的財産権法の効果的な活用のあり方を示唆する、タイ独自の興味深い事例として取り上げ、モノグラフにまとめる一次資料の収集に成功している。 またアウトリーチ活動については、教育活動を行う勤務先・慶應義塾大学教養研究センター日吉行事企画委員会主催のシンポジウム「国民文化のなかのタイ舞踊」に登壇者として参加し、北タイ舞踊とその起源に関わる武術との歴史的な関連性を身体技法の連続性・非連続性という視点から明らかにする仕掛けを設け、武術と舞踊の実体験を通じた異文化理解の時間を一般人・大学生訳30名に向けて提供した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、本研究の目的に沿ってフィールド調査を継続して実施し、二年次以降はモノグラフの作成に着手していく予定である。初年度は、教育活動の一環で取り組まれてきた地域芸能・舞踊の創作活動について調べてきた。次年度は、文化人類学会研究大会にてフロアからのフィードバックを受けて課題として残った点も踏まえ、フィールド調査を通じて調べていく。具体的には、商業ベースで取り組まれる舞踊教育家、芸術家の創作活動および芸能経営における著作権法・知的財産権法の認識のされ方、あり方、また実際に訴訟が起きた際の感情の仲裁のあり方を文献・聞き取り調査を通じて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度執行しなかった分は物品購入費である。次年度以降はモノグラフの作成に取り組むため、書籍の購入費用で支出することが見込まれる。翌年度に繰越し、物品購入にて使用する予定である。
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