研究課題/領域番号 |
22K13271
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
平野 智佳子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 助教 (90889586)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 遊動 / オーストラリア / アボリジニ / 飲酒 / 狩猟採集 / トラブル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、オーストラリアの中央砂漠に暮らす先住民アボリジニ、とりわけアナングを自称/他称とする人びとを対象に、彼らの酒をめぐるトラブルがどのように発生し解消されるのか、もしくは解消されないのかを、酒の獲得に不可欠な「クルージングcruising」と呼ばれる遊動に焦点をあて、明らかにすることである。 上述の目的を達成するために、第1年度はアボリジニをはじめとする狩猟採集民の遊動に関する民族誌を渉猟し、その議論の傾向を整理・検討した。加えて、アナングの遊動の過程を民族誌的調査によって読み解いた。具体的には、2022年7~8月にオーストラリアの中央砂漠で実地調査をおこない、酒を求めて遊動する人びとが引き起こすトラブルについて情報収集と分析を進めた。 これまでの研究では、遊動が人びとの酒の獲得を促進することは明らかにされたが、遊動が飲酒トラブルの発生や解消につながるという点は十分に議論されてこなかった。この点をふまえると、当該年度の研究の最も大きい成果は、酒の獲得に没頭する人びとの過度な遊動が飲酒トラブルを生み、発展させるという具体的な一次資料を得た点にある。これらの一次資料は、オーストラリアにおいて国家的課題となっているアボリジニの問題飲酒の内実を現地の文脈から読み解くために必要不可欠な情報である。また、アボリジニにとっての適正な飲酒、そしてそれを実現するために必要とされる条件や配慮を検討する上できわめて重要な資料となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響が懸念されたが、オーストラリアの渡航制限が解除されたため、第1年度のオーストラリアでの現地調査は問題なく実施できた。調査中の拠点としている先住民コミュニティでも現地住民は日常生活をほぼ取り戻しており、報告者に対する受入も良好で、インタビューや参与観察といった人類学的調査への協力も得られた。 加えて、2007年より継続されていた北部準州緊急措置法が2022年7月に撤廃され、飲酒トラブルの発生と解消の動きがより顕著となったため、本研究課題である遊動と飲酒トラブルに関連する一次資料を十分に得ることができた。特に調査拠点の先住民コミュニティでは、近年、飲酒運転の事故が多発し、泥酔状態での遊動を危険視する声が高まっているため、飲酒トラブルをめぐる人びとの語りを数多く記録することができた。 以上の理由から本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年7月に北部準州緊急措置法が撤廃されたことに付随して、各地の飲酒規制が緩和し、酒の消費量も増加している。飲酒トラブルが多発しているため、2023年2月には再び飲酒規制を強化しようとする動きもみられる。これらの新たな変化に留意しつつ、来年度も計画どおり、文献検討および現地調査を継続する。
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