研究課題/領域番号 |
22K13273
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
加藤 秀雄 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸員 (10868871)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 琵琶湖 / アユ / 民俗誌 / 流通 / 放流 |
研究実績の概要 |
本研究は琵琶湖産アユ種苗の広域的な流通ネットワークを民俗誌として描くことを目的にしている。初年度の2022年度は、琵琶湖のアユが放流・養殖用種苗としての価値を見いだされるに至った経緯を歴史資料から再構成し、日本民俗学会などで、その成果を発表した。また関連地域で資料収集とフィールドワークを開始したが、以下では、これらの調査から明らかになった2022年度の研究実績の概要を示す。 琵琶湖のアユはワムシなどのプランクトンを捕食し、10センチ程度に成長するが、これを他の河川環境に移植すると珪藻・藍藻類を主食とするようになり、17~30センチにまで育つ。しかし明治後期まで琵琶湖の「コアユ」と各地の河川で捕獲される「オオアユ」は別の種類の魚と考えられており、これを人為的に育てる伝承知や技術は存在しなかった。だが大正・昭和初期に、コアユとオオアユの違いは生育環境によるものであることが科学的に明らかになり、琵琶湖産アユ種苗の池中養殖と輸送実験が行われることになる。これらの実験の結果を受けて、戦後には全国の河川組合や養殖業者による湖産アユ種苗の需要が急増した。こうして琵琶湖のアユ漁は、昭和期に入って新たな展開をみせることになり、エリ、ヤナ、オイサデ漁など生きた状態でアユを捕獲できる漁法の重要性が高まることになる。いずれも古い歴史を有する伝統漁法だが、その急拡大を促したのは、アユ種苗の重要性が増した昭和期以降の現象であることが明らかとなった。 以上のことは、従来の民俗誌的方法では対象化しづらい問題であり、科学技術社会論や近年、議論の蓄積がなされている人と自然の関係をめぐる新たな分析視角の必要性を意識させるものとなった。2023年度は、これらの議論を意識しながら、琵琶湖における人とアユの関係の歴史的な変化を、どのように描けばよいか検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度前半から中盤にかけては、コロナ渦の影響で積極的に現地調査を行うことができず、関係者との人脈形成やコアユ漁の実態に関する調査にやや遅れが生じた。これに代替する作業として歴史資料の収集と分析を重点的に実施したが、その過程で滋賀県水産試験場の専門家の協力を得られるようになり、研究の遅れを取り戻す見込みが立ちつつある。しかし現状では当初想定していた量のデータが集まっておらず、現状では「やや遅れている」と判断せざるをえない状況である。ただし今年度は、口頭報告3件を公表することができ、その論文化に向けた作業にも着手したので、引き続き作業を継続し、研究を推進する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行にともない、2023年度は積極的に現地調査を実施する。特に滋賀県下の漁協、養殖業者、仲買商などへの聞き取りを進める。これに加えて他地域におけるアユ養殖と放流に関する情報収集と、湖産アユ種苗の流通網に大きな影響を与えた冷水病に関する調査も実施する。冷水病とその対策のあり方については、滋賀県水産試験場の専門家の協力を得ながら調査を進め、その成果を学会などで報告し、論文化、書籍化に向けた作業を行っていく。
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