2022年は、博士論文の連載・公刊に集中した。具体的には、行政裁量審査基準論を展開する基礎として、行政裁量論が審査基準論を必要としていること、そして審査基準論が正当であることを明らかにしている。すなわち、同論文においては、功利主義を擁護した上で、そこからアラン・ゲワースの議論を批判的に導入することで権利論を導出、これによって違憲審査方法論である既存の審査基準論を正当化し、かつ、新たな審査基準論を設定するためのメタ基準を導出した。さらに、その審査基準論が、現在、混迷に陥っている行政裁量審査にも応用可能であることを示している。 このような体系的議論はいままで行政法学では行われてこなかったのでその点でも価値がある。とりわけ、哲学の知見を本格的に行政法学に応用しているのは、日本では本研究が初めてであると思われる。他方で、本研究にとっては、それ以上に、行政裁量審査基準論を展開するためのメタ基準を特定した点に大きな価値がある。あとはこれらのメタ基準を個々の判例に応用すればよいのだが、その適用において重要な問題が現れる可能性がある。そのため、行政法学の個々の判例や主題に関する研究も今後、進めていく必要がある。 別途進めていた公物管理権論に関する研究では、法律の留保の要請をメタ基準に組み込む必要があることが明らかになった。その作業自体は特に困難ではないものの、法律の留保論自体がかなりの蓄積のある主題である。したがって、それらの蓄積を適切に摂取した上で議論を展開する必要がある。
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