研究課題/領域番号 |
22K13295
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
藤木 貴史 帝京大学, 法学部, 助教 (20846399)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ビジネスと人権 / 第一修正 / 基本権 / 労働組合 |
研究実績の概要 |
国境を越えた経済活動が盛んになるなか、ビジネス分野における人権侵害をいかに防止するかという問題が注目されている。本研究の目的は、この「ビジネスと人権」の問題について、集団的労働法規制が果たすべき役割に関する理論的基礎を明らかにすることにある。具体的には、労働問題のステークホルダーとして想定されてきたのはいかなる存在かを明らかにし、それらが問題解決のためにどのような役割を果たすかを検討することにある。 研究実施初年度においては、文献研究を通じて、日本およびアメリカにおける現状の基礎調査を実施した。その結果、次の2つの成果を得た。 第1に、「ビジネスと人権」において主導的役割を果たすことが想定される労働組合に焦点を当て、現代のアメリカにおいて占める地位を明らかにした(藤木貴史「アメリカにおける団体交渉法制の困難と労働協約締結への課題:米Amazon社における労働組合の組織化から」季刊労働法279号(2022年)78-94頁)。具体的には、人権侵害を監視するための重要なメカニズムと考えられる団体交渉について検討し、アメリカ法における団体交渉が労働協約依存的であるのに対し、日本における団体交渉は、労使間のコミュニケーションの正常化というアメリカにない視点をもつことを明らかにした。この点は、「ビジネスと人権」を考えるうえで日本における集団的労働法規制が有利に働きうることを示唆するものといえる。 第2に、労働分野において保護されるべき「人権」としてどのようなものが考えられるか、アメリカ法を題材として検討した(藤木貴史「アメリカ労働法における人権・基本権の役割――経済的民主主義に向けて」浜村彰先生古希『社会法をとりまく環境の変化と課題』(旬報社、2023年)87-110頁)。市民的公共性を追求するという視座を基本権保障の趣旨に読み込めるか否かが、人権の範囲を左右する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、文献研究を中心に、日本・アメリカにおいて、労働組合がビジネス分野にでの人権保障につきいかなる役割を果たすかを調査した。調査結果について、これまでの予備研究と併せて一書にして世に問うこととし、原稿執筆を優先した。そのため、2年目以降の現地調査に向けての準備や、研究成果の公開などについては、当初予定していたほどの十分なものとはならなかった。また、翌年度において移籍により研究環境が変化することが明らかとなったため、その準備が必要となり、予期していたほど研究時間を当てることができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
1年目の準備を踏まえ、特にアメリカにおける労働組合によるビジネス分野での人権保護について、研究の中間的内容を書籍の形で公刊することを予定している。また、日本におけるビジネスと人権の展開について広がりがみられることから、文献レビューを通じた研究の実施を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は次の2点である。(1)初・2年度の研究成果について、予備研究と併せて書籍化を実施することとしたため、書籍化にかかる経費を2年目にまとめて執行する必要が生じたため。(2)所属研究機関を移籍することとなり、研究環境の変化と再構築のために物品費を節約する必要があったため。 翌年度分として請求した助成金と併せた使用計画として、研究計画の書籍化および国際学会への出張を計画している。
|