研究課題/領域番号 |
22K13297
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
南迫 葉月 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (90784108)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 協議・合意 / 企業犯罪 / 司法取引 |
研究実績の概要 |
本研究は、取引による処罰の公正さを確保しつつ、効果的な企業犯罪対応を実現するため、どのように協議・合意制度を構成すべきかを考察する。我が国の協議・合意制度は、標的者の処罰を実現するため、その捜査や公判に協力した協力者の処罰を控える又は軽くするものであることから、処罰の効率性と公正性が対立しうる。そこで、アメリカ及びイギリスにおける取引に基づく刑事処分をめぐる法状況・議論状況を調査・分析し、それを参考に効果的な企業犯罪への対応を実現するために、現行の合意制度をどのように改善すべきかを検討する。 以上の構想に従い、令和4年度はアメリカ法の基礎調査を行うことを計画していた。具体的にはDPA・NPAに関する基礎的な文献を収集し、その理論的枠組や実際の運用状況について分析・検討を行った。DPA・NPAは企業犯罪を中心とする取引であるが、それに限らず、広く取引を用いた刑事事件の処理も視野に入れて情報収集を行った。 そして、このようなアメリカ法の調査結果の一部を日本刑法学会において報告した。学会報告では、アメリカ法の分析をもとに取引一般に潜む危険・問題点を解明し、日本の合意制度において当該危険がどの程度妥当するのか、またその危険に制度上どのように対応するのかを検討した。検察官と被疑者・被告人の間の取引に基づき、刑事処分を決定することにどのような危険が伴うのかを明らかにすることは、公正な手続の実現にとって不可欠の前提をなすものである。また、取引に内在する危険に現行の合意制度がどの程度対応できているのか、対応できていない問題は何かを明らかにすることも、今後の合意制度の改善点を探る上で有意義な分析であったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、判例や学説など基礎的な文献の収集・分析を通じて、アメリカにおけるDPA・NPA・答弁取引といった取引に基づく刑事事件の処理に関する法状況を調査することを予定していた。 本年度は、その計画に基づき、アメリカにおける取引的手法を用いた刑事事件の処理に内在する危険・問題を明らかにし、日本の協議・合意制度においてかかる危険・問題にどのように対処するかを検討することができた。これらの考察結果は、今後の合意制度の改善点を模索する上で基盤をなす有意義な作業であり、本研究の目的に資するものである。 ただ、そこでの検討は、企業犯罪に限らず取引一般の問題を扱ったものであり、また、問題への対応として裁判所による措置を中心に検討するものであった。 そのため、特に企業犯罪に固有の危険・問題の抽出・分析や、裁判所以外の機関による対応策についての検討がいまだ不十分である。これらは翌年度以降の課題として、引き続き調査・検討することとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在までの進捗状況に照らして、なお検討が不十分であった課題について、引き続きアメリカ法の調査を続けることとする。すなわち、DPA・NPAなど企業犯罪を中心とする取引の問題点を分析し、裁判所をはじめとする多様な機関による統制の在り方を調査する。 また、それと並行して、令和5年度はイギリス法の基礎調査も開始することとする。イギリスのDPAは、米国のDPAを参考にしつつ独自の改良を加えていることから、アメリカと並行して調査・分析することは、両国の制度を理解する上で大切な作業となる。 そこで、米国・英国双方の基本的文献の調査を進め、さらにその結果に基づき両国を比較することで、双方の理論的枠組・運用状況について分析・検討を深めることを目標とする。
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